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2006年11月06日

2006年11月5日 基本を押さえる

環境×文化×経済 山本紀久雄
2006年11月5日 基本を押さえる

今の新聞

先日、長期信用銀行出身の経営者の方とお話をする機会がありました。話題は長銀がバブル崩壊後巨額の不良債権を抱え、経営が迷走状態となり、最終的に政府によって一時国有化された後、アメリカの企業再生ファンド、リップルウッドや外国銀行らからなる投資組合New LTCB Partners CVに売却され、これが新生銀行となった経緯になった辺りから、憤懣やるかたない表情となり、当時の政府と大蔵省を罵倒します。この気持は十分に分かります。今から6年8ヶ月前の出来事でした。

気持が少し落ち着いた頃に「長銀の出身者で有名人はどなたですか」とお聞きしますと「竹内宏さんと日下公人さん」を挙げられました。竹内宏さんは経済をやさしく絵解きすることで人気がありましたし、日下公人さんは今でも著書・講演で活躍されています。この日下公人さんが今の新聞について次のように述べています。
1. 取材力不足のまま報道する。2. 報道に迫力がないので解説に逃げる。
3. 解説も勉強不足だから道徳論に逃げる。4. 道徳論も結論を言うには勇気がいるから、単に一般的な願望を言う。
猪瀬直樹さんからも同じようなことを直接聞いたことがあります。道路公団民営化の問題で新聞記者と接し痛切に感じたと言っていました。毎日読んでいる新聞の記事内容がこのようであるとしたら、自分の足で確認することの必要性を改めて感じます。

日本の景気

東京駅、大丸デパートのコート売り場に人影がありません。気温が高くコートやセーターなどの防寒着が売れません。衣料品専門店は軒並みに売上前年割れです。
しかし、大企業の中間決算発表は好調です。日本の全体景気もいざなぎを超え、10月19日日銀支店長会議では、日本の全地域が回復・拡大基調に転じたと報告されました。データ上では景気回復が長期化しているのです。
だが、一般の人々、先日もあるセミナーで「この不況下で苦しんでいる」と発言した29歳のサラリーマンがいたように、景気回復感がない人々も大勢いるのも事実です。
これに対し、経済エコノミストの今井澂さんは次のように明解に述べています。
「要するに大企業の製造業で、世界市場にリンクしているところは、絶好調と言っていいし、この大企業と取引がある中小企業は元気だ。日本国内にしか市場がない製造業や非製造業、特にサービス業は、この好況の恵みにまったく浴していない」
これになるほどと思います。そういえば今年の5月にアメリカ・シアトルに行った際、ここにはボーイング社の本社があって、ANAが次期主力機「787」を50機まとめて注文したので、シアトルの町で大評判になっていました。この2008年に就航する「787」は、既に5年分以上の生産数に相当する650機(今年の6月末)を受注しており、この機体向けに炭素繊維を供給している東レの中間決算は過去最高の営業利益となっているのです。勿論、東レと同じくボーイング社と取引がある日本企業はすべてこの恩恵を受けて、好調な決算となっています。この内容を山本塾でお話しましたら、出席の外国航空会社の客室乗務員の方が「うちも何機か注文している」という発言もあり、今井澂さんの指摘は事実と確認できます。ですから、このような大企業と、その下請関係企業が所在している市町村は景気がよく、そうでないところはシャッター通りになっていく。グローバル化が市町村の景気を左右させているのです。

NYぬりえ展

10月21日にニューヨークのぬりえ展が終了し、開催した大西ギャラリーのオーナーは、次のコメントを述べました。
「ニューヨークの人たちは日本文化・アートに大変興味があるが、それを鑑賞できるのは美術館が多く、気軽に訪れられるギャラリーでの鑑賞は難しい。その意味で今回のぬりえ展が、現代美術の中心であるチェルシー地区の当ギャラリーで開催されたことによって、アメリカの幅広い層に、日本のポップ・カルチャーの原点としてのぬりえを紹介できたことは有意義だった。また、日本のぬりえを見るのはアメリカで初めてであったが、ぬりえは子供の遊びとして世界共通のものだから、アメリカのぬりえと比較し、その差にとても興味を持ったようだ」。
また、ジャパンタイムズには「来場者はきいちのぬりえの”かわいさ”を認め、同時にきいちの芸術性とそのディテールに感銘を受けていた」と掲載されました。
これらの評価から、ニューヨークで「きいちのぬりえ展」を行うことは、時期尚早という一抹の不安もありましたが、それは杞憂であったと感じているところです。

大人のぬりえブーム

ある方からメールをいただきました。「大人のぬりえがブームとなっているが、ブームが去った後はどうなるのか」という内容に「やはりそうなのか」と思います。ぬりえはブームだから人気が出ていると理解しているのです。
確かに河出書房新社と産経新聞社が主催した11月3日の「大人の塗り絵コンテスト」には、3千点以上の応募があり、入選作を決めるのに困るほど力作ぞろいだったと審査員が述べています。確かに大人が塗るのですから、しっかりした作品が多く、これだけの応募があるのですから、河出書房新社刊の「大人の塗り絵」シリーズが140万部を超えるベストセラーになっていることも頷けます。
ブームとなっている理由としては「脳を活性化する」「癒される」等を挙げています。しかし、脳の活性化や癒されるものは他にもたくさん存在する中で、どうして「ぬりえ」がブーム化しているのか。そのところの理由が明確でないままに、新聞やテレビがブームとなっていると報道し、それを見聞きした多くの人がブームと理解していく。そのような気がしてなりません。
つまり、ブームになっているということは、人間の中に存在している何かを捉えているということですが、その何かを明確にしていく作業を誰もしないで、ただブームという報道と、その報道によって多くの人たちがぬりえを塗っているのではないか。
そのところを指摘したのが冒頭のメールであり、この方は「ぬりえという存在の基本を押さえろ」と伝えてくれたのではないかと思っているところです。

コンテンツビジネス

明治維新を期に「和魂洋才」を基本に走ってきたのが日本の実態です。今でも諸外国から技術を買い、それに応用技術を付け加え、それを付加価値として効率よくつくろうとしている企業が多くあり、この上手さで「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と謳われたときもありました。しかし、今は世界の工場はアジア諸国に移って、人件費高の日本が世界と競っていくには、応用技術だけでは限界が来ていると、御手洗経団連会長が指摘しています。応用技術の前提となっている基本特許を押さえないと、国際競争に負けるという主張でその通りと思います。
一方、アメリカのハリウッド映画やデイズニーは、コンテンツを磨いた結果、アメリカの重要な輸出産業になっています。日本でも宮崎駿監督によるスタジオジブリの一連の作品は、日本国家のブランド価値を上げる結果となり、ゲームと並んで輸出産業となっています。つまり、コンテンツビジネスが成立しているのです。
コンテンツとは情報の中身のそのもののことで、映画や音楽、ゲームなどの娯楽から、教育、ビジネス、百科事典、書籍まで幅広いのですが、今までこれらは業界ごとにバラバラで対応していたものを、一つの産業として育成し「知的財産立国」になろうとするのが、2002年11月に制定されている「知的財産基本法」です。

基本を押さえる

「大人のぬりえ」が日本でブームとなっている。だが、世界のどこの国でも「大人のぬりえ」は存在していないし、ブームになっていない。だから、日本のブームを世界のブームに広げること、それはマンガやアニメーション、ゲームの事例から不可能ではなく、「大人のぬりえ」がコンテンツビジネスとして成り立つ可能性がある。
そのためには何が必要か。新聞記事レベルを脱したぬりえの世界実態把握と、ぬりえが持つコンテンツと脳の相関関係と脳細胞反応データ集積等、これらの「基本を押さえる」ことが知的財産への道ではないか。そのような想いを持っているところです。以上。

投稿者 Master : 2006年11月06日 09:08

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