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2006年07月07日

伝統文化を再認識する

環境×文化×経済 山本紀久雄
2006年7月5日 伝統文化を再認識する

ワールドサッカー

7月5日はワールドサッカーの準決勝でした。準決勝に進出したのはすべてヨーロッパの国。アジア地区の国はすべて敗退し、日本は一勝も出来ずに終わりました。予選を通過できると思っていた日本人にとっては残念でしたが、ロンドンのブックストア(公認掛け屋)の事前見込みが当たりました。

この結果は、サッカーが行われてきた過去の歴史、それが今回の準決勝国を決めたのではないでしょうか。日本は体力とか戦術面等、問題点がいろいろ論議されていますが、結果的にはサッカーというスポーツを続けてきた長い伝統力の差、それが発揮されたと考えた方がよいと思います。ですから、これからもこの較差を埋めることは相当苦しいと覚悟した方がよいし、その前提の上で日本人らしさを追求したサッカーが求められると思います。

カナダ人の温泉文化

カナダのバンクーバーから内陸に向かって約500km、カナディアン・ロッキー南部のバンフ国立公園からも約500km南西に入った中間点で、アメリカとの国境近くに一軒の温泉ホテルがあります。アインワース温泉です。洞窟風呂として著名ですが、山奥ですから遠く、飛行機と車でバンクーバーから一日かかります。
ホテルのオーナーは70歳代の夫婦、とても親切にいろいろ案内してくれます。まず、最初に連れて行ってくれたところは源泉湧水場所、洞窟風呂のすぐ上の道路端、四角い箱で覆ってあって、湯量は一日7万ガロン。リットル換算で26万リットル。湯量は豊富です。湧水温度は48.9度。この湯温では熱すぎるので洞窟風呂では42度に下げています。しかしながら、ヨーロッパでは大体25度が標準ですから、同じ白人系ですので日本並みの温度では、熱過ぎるので訊ねてみました。
答えは「今までずっと長い間経営してきて文句も出ないし、皆さん喜んで入っているから大丈夫だ」といいます。そこで、実際に42度の洞窟風呂に入っていき、一緒に入っている人たちを見回すと、真っ赤な顔してはいますが、文句を言う顔つきでなく楽しんでいる様子です。ただし、入り口の岩盤注意パネルに「10分から15分までがマキシマム」と書いてあります。この実態を確認してホッとしました。
それは、ヨーロッパの温泉との比較から、日本の温泉に欧米人を迎えるための大きな問題は、温泉温度にあると今まで考えていたのです。日本の温泉は熱すぎるので欧米人には難しいのではないかと思っていたのです。だが、このアインワースでは実際に42度の温泉に入っているわけで、温度は問題ないことになります。これは大きい体験でした。今まで日本の温泉が、欧米人を迎え入れるために湯の温度調整工夫が必要だろうと、それについて悩んでいたわけですが、カナダのアインワースでホッとしました。世界は歩いてみるものだと改めて思った次第です。
ところで、この温泉は皮膚によい効果を与えるらしく、ニキビが3日間で治った事例や、リューマチにも効果があるとオーナーは力説します。日頃温泉利用者と接しているので、治った事例はたくさん知っているのです。
しかし、妙なことにパンフレットを含め、何の病気に効くとはどこにも書いていないのです。発表していないわけです。ここがヨーロッパ大きく異なるところですので、その点をオーナーに訊ねてみると「治ると言って、治らなかったら、すぐに訴えられる」から書かないと言います。なるほど、アメリカ型社会では効果・効用は表現できないのかと納得しました。社会の原点にある文化が異なるのです。何でも訴える訴訟社会が背景にあるので、温泉も効果・効用はいえません。
ということは温泉に来る人々は、何を期待してくるのかということになります。ヨーロッパは身体の治療目的で温泉に行きます。日本では温泉宿が提供してくれる極上のサービスや、癒し感覚の素晴らしい「おもてなし」が期待できます。また、ここでは日本のような宴会が出来ません。カナダの奥深い山の中の一軒家ホテルですから、周りには山と川というカナダの大自然しかありません。
アインワース温泉では、洞窟風呂とプール風呂に入って、ただ向こうに見える山並みを眺めるだけです。身体を洗うこともしませんし、してはいけないルールです。源泉掛け流しで、レジオネラ菌の心配はない環境ですが、日本人が温泉に求める「おもてなし」は皆無です。
いくらカナダの豪快な自然の山並みでも、半日も見ていれば見飽きます。しかし、多くの人々が訪ねてきて、真っ赤な顔して洞窟風呂に入り、プール風呂で静かに首だけ水面に出して、川向こうの山並みを眺めています。それがここの入浴方法なのです。日本とは明らかに楽しみ方が違っています。温泉にジッと入っているだけが温泉の楽しみ方なのです。温泉文化が異なっていると思います。日本ともヨーロッパとも異なる温泉利用があることを、カナダのアインワース温泉で理解しました。

マッサージ設備に見るカナダ文化

オーナーから協力依頼されたことがあります。それはこのホテルのマッサージを受けてほしいということです。「笑う温泉・泣く温泉」をオーナーに進呈し、中味を少し解説したところ、ヨーロッパ各地の温泉でのマッサージと、ここの内容を比較し評価してほしいという要望なのです。
そこで、マッサージを担当する女性、いかにもスポーツで鍛え上げた感じのする中年女性から、マッサージを受けましたが、問題はなく受けた感触も悪くありません。顔からのどまで品よくマッサージしてくれます。なかなか繊細です。カナダの山奥だからマッサージもいい加減なものだと予測していましたが、全く異なりました。
そのことをオーナーに報告すると大変喜んでいましたが、一つだけ大問題があるとも伝えました。それは設備状態です。マッサージというのは気分をほぐすものでもあり、リラックスするために手当てしてもらうものでもありますから、マッサージを施術する場の雰囲気が大事なのです。
ですから、ヨーロッパではマッサージ室はセンスよく上品感覚で作られているのがあたりまえなのですが、ここは悪く言えば物置の一角という場所なのです。その酷い環境の部屋にベッドが一つ置かれてあるだけで、施術中は一応癒し系の静かな音楽テープをかけますが、設備状態は最悪です。そのことはオーナーも十分知っていて、いずれ解決したいと言っていましたが、こういうところが雑なのです。それがカナダの文化かとも思った次第ですが、マッサージからもそこの国の文化が分かります。

国の印象は文化から

オーナー夫婦と一緒のテーブルで朝食をとっていたときです。何気なく日本についての印象をオーナーに聞いてみました。すると「人がいっぱい」という一言のみです。それ以外は思い浮かばないと言います。これにはこちらが絶句しました。
日本が世界に評価されているのは「伝統文化であり」「アニメ・マンガに代表されるポップカルチャーであり」「非軍事対外協力である」と、こちらは理解していますので、オーナーからの一言にはビックリしました。
そこにちょうど会計係りがデータを持って登場しました。このアインワース温泉の利用者数とか、売上金額などを教えてくれとオーナーにお願いしましたら、それは会計係りの担当だからといい、朝食のテーブルに呼んでくれたのです。親切にデータを開示してくれた後に、日本の印象を会計係りの中年女性に聞いてみました。
すると「とても親切でビューテイフルな国で伝統がある」と最高の表現です。絶賛です。これにも一瞬絶句しました。オーナーと対極表現だったからです。
同じカナダ人で、同じホテルで普段から仕事で接し一緒に働いている仲、同じカナダの山奥に住んでいるし、生活文化も大差ない二人、しかし、日本に対する印象は対極にあるのです。その対極差の理由、それが会計係りの次の一言で分かりました。それは「中学生の息子が伊豆の修善寺でホームステイし、その息子が撮ってきた300枚の写真を見て説明を受けたから」ということなのです。
修善寺で受けた日本人の親切と、修善寺の歴史と文化を示す写真を息子から説明を受けて、日本の印象が構成されたのです。実際に身近で日本のことを体験した人から伝わって、その結果として日本の印象がつくられていく事実を目の前で確認しました。なるほどと思い、日本の実態を伝える重要性を改めて感じましたが、最も大事なことは、日本には外国に胸張って伝えられる「伝統文化」があるという事実確認です。
この事こそがすべての原点です。日本の伝統文化は世界で高く評価されている事実、そのことを我々は正しく認識し、日本文化を正しく把握する努力をしたいと思います。以上。

投稿者 Master : 2006年07月07日 06:14

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