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2006年06月06日

2006年6月5日 自分の敵は自分

YAMAMOTO・レター 環境×文化×経済 山本紀久雄
2006年6月5日 自分の敵は自分

実感する景気

90年代の金融危機のとき、家庭用金庫需要が急増しました。金融危機に対する防衛対処法セミナーが大流行で、それに伴うリスク分散の一環行動としての家庭用金庫需要でした。しかし、このところ金庫の販売状況が平常に戻ったようです。ということは「家庭用金庫=タンス預金」への動きが止まり、家庭用金庫にあったゴールドが値上がりとともに現金化され始めました。これらの動きはようやく人々の気持が、おカネを「守る」から「使う」に移りかけているのではないかと感じています。

というのもアメリカ・シアトルに行こうと、JAL、このところJALは不祥事件が続き不人気ですが、予約しようとJALに電話すると満員との回答だったからです。サンフランシスコ経由も満員、仕方なくカナダのバンクーバー経由でチケットを入手しました。機内誌にJAL管理職から下克上されたトップ、その顔写真入り挨拶文が掲載されているのは気に入りませんが、実際に乗ったJAL機内客室乗務員は、親切で一生懸命対応してくれています。ゴールデンウィーク後でありながら、満員の機内を見回して景気の動向を実感しました。

オンリーワン経営

JAL機内誌でグレゴリー・クラークさん(多摩大学教授)が、外国人から見て不思議な現象として「日本人の講演好き」があると書いています。日本人は他人の意見を聞きたがる人種だと断定しています。他の国よりもこの傾向が強いと述べています。自分もよく他人の講演を聞き、時折講演する者として、この指摘は当たっていると思います。
ついこの間も、東京で有名な企業経営者団体から講演の声がかかり、テーマ決定の事前打ち合わせに参りました。事務局の方から最近の講演内容を問われましたので、先日の静岡県伊豆長岡で行った「世界から見た日本の温泉業界への期待」の内容をお話しすると、すぐに「世界から見た日本の魅力」というテーマを指示されました。このテーマの背景意図は、日本の魅力を外国から見た立場で分析し、改めて日本の素晴らしいところを確認し、ますますグローバル化が進む中で日本企業が向かうべき方向性を示してほしいというものです。
つまり、グローバル化に向かう経営時流を解説することになりますが、それは外国と日本を比較することによって、日本文化が外国から高く評価されている事実を認識し、その日本文化のよさを最大限発揮させることこそが、グローバル化の中で生き残って成長していく根源力になるという内容になります。
しかし、この日本文化のよさを再確認し得たとしても、自社経営との具体的結び付けが他の企業と同じパターンであるならば、それは差別化されないということですから、特長がないので独自成長は難しく、再び同じ分野で、大勢が揃って同じスタイルで、その中でナンバーワンを競い合う、という厳しい経営実態に陥ります。今までに繰り返してきたものと全く同じ結果となるのです。
ですから、日本のよさを再確認するとともに、次への展開は脳を使って工夫し、他社と差別化した「オンリーワン」経営を目指すことが大事なのです。ということでテーマは「世界から見た日本の魅力」ですが、内容は「ナンバーワンからオンリーワンへ」ということになります。しかし、このようなオンリーワンの必要性は新鮮味がなく、既に十分に分かっていて、知られていることなので、講演会に人が集まりません。従って別タイトルテーマとなったわけです。
しかしながら、世の中の成功セオリーは昔から変っておりません。だが、セオリーを分かっていても実際に出来ない人が多いからこそ、実は何回も同じセオリーを講演会でお伝えすることに意味があるのです。「分かっていることを、実際に出来るようにした」人が、成功への道に向かうことになります。

人の話を聞くこと

このところ続いて傾聴の勉強をしまして、改めて人の話を聞くことの大事さを認識しました。また、営業力で成功した人物のお話を伺う機会もありまして、その方が「会話の中で当方が話すのは二割ぐらいに抑え、残りの八割はお客様の話を聞くようにしている。そこで大事なのは二割を話すこちらの言葉が大事になるわけです。聞かれてもいないことをべらべら喋るのでなく、お客様の質問や相談に対して、適切な言葉で明確に答えることが大切です」と教えてくれました。また「お客様から十の質問をされて、一つや二つは答えられない方がいい。そうでないとお客様を負かしてしまうことになる。分からないことは正直に言うことです」更に「その場ですぐ調べて答えが見つかったら、お客様のおかげで勉強できました、という返事をすると、その場の雰囲気は最高になること、間違いありません」とも教えてくれました。
毎月の講演会で質問に答えられないこともありますので、なるほどと思うとともに、家庭内でいつも「聞いていない」と指摘されている現状では、反省しかないなと思いつつ「分かっていながら出来ない」ことが実際に多いのだなぁと、本当に思います。
昔からよく言われている内容であって、それを知って理解しているのに出来ない自分は、自分の中に出来ないもう一人の自分がいるということになりますが、傾聴セミナーを受講した人は、皆さん同様の感想をもらしますから、多くの人が分かっていて出来ないこと、その典型例の一つが傾聴と思います。

理念の追求=居酒屋→居食屋→有機栽培→介護施設

先日、ワタミ㈱の渡邉社長のお話を聞く機会がありました。有名人ですから大勢の聴講者がいましたが、その年齢層がいつもの講演会と異なって若いのです。まだ20歳代前半の人が大勢来ています。明らかに経営者ではありません。これから仕事を探そうとする人か、卒業予定の大学生です。それらの人が皆一生懸命にメモし、渡邉社長の一言一句を聞き逃さないぞ、という感じで身体が前乗り姿勢なのです。ちょっと感動しました。いまどきの若者は、という感覚を変えさせられました。
渡邉社長の内容は厳しいものでした。小学校五年で両親を失い、それまでの豊かな生活が一変し、貧しさということを本当に体験した。会社というものは一般に入るものだと思っているようだか、自分は会社をつくるものであると考えていたので、一度も就職活動しなかった。今は大学新卒が一年間に500人入ってくるが、最初は大卒から見向きされなかったので、店にアルバイトしている学生を口説いて就職させた。このような体験談を聞いたわけです。
最近はあまり行かなくなりましたが、以前は「和民」に行ったことがあります。そのときにここは居酒屋という認識で、ここでは酒を飲むところというイメージで利用していたところ、向こうの部屋で若い夫婦が幼い子供をつれてきていて、その子供が走り回っていたことを妙だなぁと、思った経験があります。その疑問が渡邉社長のお話を聞いていて疑問が解けました。こちらは居酒屋という理解で「和民」に行ったのですが、実は渡邉社長の理念は「居食屋」という、ファミリー対象の新しい食事業態を目指していたのです。だから当然子供がいて当然なのです。こちらは居酒屋と思っていたので、子供に違和感を持ちましたが、それはこちらの理解不足だったのです。疑問が今になってようやく分かりました。渡邉社長が目指すこれからの経営は、有機栽培と介護施設展開です。有機栽培によって害の少ない新鮮な食材を提供できるようになるのですから、それは介護施設入居者にも提供できることになります。
つまり、居食屋も介護施設も「食」という視点で考えれば同じで、当然の発想であり、日本で最大の有機栽培事業と介護施設事業展開を目指しています。その発想の原点に、自分が日本の農業を変え、自分が日本の介護を変えるのだ、という強い目的があり、そのことを本当に理解できる人材を選別して採用していると言い切ります。ですから、本社ビルの八階で開催されるエリアリーダー会議で、この理念・目的に従っていない行動の幹部には「ここから飛び降りてしまえ」、というような激しい叱咤が日常茶飯事であると真顔で語ります。激しい叱咤は、本人を憎んで嫌いで言っているのではなく、渡邉社長が目指す理念に同感して一緒に働いているはずなのに、そのことが実行できない「相手の中にある敵」に対して発声しているのです。

景気が動き出したタイミングに、改めてオンリーワン経営・傾聴・理念追求型経営が大事で、その前提としては「自分の敵は自分」をコントロールすることです。以上。

投稿者 Master : 2006年06月06日 04:56

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