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2005年06月06日

はじめてなのに懐かしい

YAMAMOTO・レター 環境×文化×経済 山本紀久雄
2005年6月5日 はじめてなのに懐かしい

各地に出かけると

名古屋駅の地下鉄東山線ホームに立ち、線路の向うをみると「このホームから転落した時は、ホーム下の奥へ避難してください」と書いてあります。このような表示は他の駅ではみたことがありません。地下鉄東山線名古屋駅は、ホームから転落する事故が多いのか、それとも単なる危険防止の注意事項か。

それにしても転落した時は、多分、慌てているだろうから、すぐにホームに登ろうとするはずです。しかし、この表示の意味するところは、線路からホーム上に戻ることが実際には難しいのか。一瞬ドキッと緊張感を与える掲示文字でした。
浜松町から羽田空港に行くモノレールに乗って、ドア上に表示されている終点駅をみると「羽田空港第2ビル駅」とあり、その前駅は「第1ビル駅」となっています。いつの間にか空港駅が二つになっているのです。昨年の12月に終点駅が変わっているのです。
「第1ビル駅」で降り、荷物検査を受けてJALのラウンジに入り、少しゆっくりしようとお茶・ジュースのサービスカウンターに行ってみて気づきます。明らかにサービスメニューが減っています。何が減っているのか。冷蔵提供していた水・お茶のペットボトル類がなくなっています。この実態でJALの経営状況が分かります。
各地に出かけますといろいろ変化に気づきます。

持続的成長・サステイナビリティ

万博に行くため、名古屋城に近い旅館に宿泊申し込みしたところ「朝食はどうしますか」との質問に「お願いします」といいますと「皆さん、朝食とらずに万博に行きますよ」という回答です。万博に行くなら、早く行って人気のパビリオンに並んだほうがよい、という親切な気持があらわれている電話応対です。
万博が一段と元気になってきました。6月5日現在で662万人となり、目標1500万人達成に必要な一日8.1万人に対して、1.1万人多い9.2万人となりました。
名古屋大学で開催された「愛・地球会議」でも、万博事務局長が胸張って入場者数を元気に報告しました。この会は「持続可能な社会の創造」をテーマに、世界の有識者や専門家が参加するシンポジウムで、万博開催の3月から9月まで毎月開催されているのです。6月2日は「21世紀の産業基盤~循環社会へのメッセージ」がテーマで、雨降る中、多くの人が名古屋大学に集まりました。
会場内で気づいたことがあります。発表者から「持続的成長・サステイナビリティ」という言葉が多発され、これからは「ゆっくりと熟成した成長」が必要であるという主張がなされていることです。環境重視の視点からは当然で、会議のコーディネーターである茅陽一博士(地球環境産業技術研究機構副理事長)から、前提背景条件として
   1. 世界人口は21世紀にゼロ成長になるだろう
   2. しかし、経済は何らかの成長を遂げなければならない
   3. そのためには、資源の循環化、エネルギーの脱炭素化が必要
の3項目が提示され、時代は「持続的成長・サステイナビリティ」の方向に向かっていることを確認いたしました。

マンモス絶滅ストーリー

愛知万博の8人乗りのゴンドラ、何処か地方訛りの中年女性が7人、その中に1人加えてもらって瀬戸会場に向かいました。女性は親切です。すぐに飴やお菓子を差し出してくれながら「朝一番にマンモスをみてよかったよ」と語りかけてきます。
ゴンドラは途中2分間、一切外がみえない窓ガラス状態に瞬間にして変化します。これは何だ、と一瞬女性たちはガヤガヤしますが、窓外の住宅透視プライバシー保護のためと分かって、成る程ね、とその技術に感嘆するため息に変わります。
さて、「マンモス」がどうして万博のメイン展示場のグローバル・ハウスに存在するのか。当然、マンモスを展示するには意味があります。名古屋大学のパネラーで登場したグローバル・ハウスの福川館長、この人物は元通産省事務次官ですが、マンモス絶滅は食糧危機からなのか、それとも環境変化によるものなのか、いずれ学者によって明らかになるだろうと発言していましたが、マンモス絶滅のストーリーを宇野正美氏は次のように推測しています。
「ツンドラ凍土から殆ど完全な形でマンモスが掘り出されたことがあり、そのマンモスの胃腸には食べた植物がそのまま残っていた。これはゆっくりとした変化ではなく、急に大変化が起きたことを示している。予測がつかないスピードでマンモスの身体全体が凍結していったのである」(国際時事情報誌エノク2005年6月号)と。
つまり、宇野正美氏の主張は、気象条件の劇的変化によって、一瞬にしてマンモスは滅びたというのです。これを事実として受け止めれば、シベリアの奥地凍土からわざわざマンモスを掘り出し、名古屋まで運んできたのは、地球環境の悪化によって、再び過去と同様の劇的変化が未来に発生する可能性があり得るし、今度はマンモスの替わりに人間が凍結するかも知れないという恐れ、その情報を伝えるためにグローバル・ハウスのマンモス展示があると理解できます。
多くの人がマンモスをみたいという背景、それは勿論、興味本位でしょうが、その興味の奥底を推測すれば「どうしてマンモスが絶滅し、それが万博のメイン展示物となっているのか」ということに、漠然とした疑問を持ちつつ、マンモス絶滅と地球環境と人間の未来、それらを結びつけて考えられる人々、それらの人たちによってマンモスが人気となっているのではないかと、と思っています。但し、「朝一番にマンモスをみてよかったよ」と語りかけてきた中年女性グループが、そのような感覚であるかどうかは分かりませんが。

なつかしの風景

愛知万博の人気パビリオンは大変な状況です。会場前に並ばずに入れる、事前予約を済ませた会場入場券が、インターネットのオークションに大量に流出し、高値で売買されています。(日経新聞2005年6月3日) 一番人気のトヨタ館と日立館は、日曜日の予約済み入場券が一万四千円という高値、実際にインターネットで事前予約システムに応募しても、予約済みを確保するのは至難の状況ですので、オークション購入に向かうのも分かります。
この人気はハイテクの企業だけでなく、アニメの「サツキとメイの家」も大人気です。「サツキとメイの家」は昭和30年代の生活を描いた、宮崎駿監督の長編アニメ「となりのトトロ」(1988年)に登場する家を復元したものです。この入館引換券も競売サイトに出回ってしまい、今はハガキによる予約方法に変更になり、先日ハガキで応募したところですが、とにかく人気があります。
その人気の背景に「昭和時代を懐かしむ」傾向があげられ、日本各地の昭和時代を復元した施設にも多くの人が訪れて、正に昭和時代が時流で、そこを訪れる人たちは二つに区分けできます。昭和時代を体験している人たちと、そうではなく「昭和時代を未体験の若者たち」ですが、「未体験の若者」の多くが、訪れて「はじめてなのに懐かしい」と発言します。
しかし、昭和時代には生まれていなかったのですから、若者の「懐かしい」という表現は矛盾し、論理的にはあり得ないことですが、実際にそのように発言するのですから、若い人たちの奥底人間感覚に触れる何か、それが「昭和時代」にあると思います。

レッサーパンダが立ち上がった

千葉県で一頭のレッサーパンダが立ち上がって、二本足で歩いたと思ったら、他のところのレッサーパンダも同様に二本足で歩いて、それが大人気です。飼育係りが差し出す手に向かって二足歩行する姿、それをテレビでみて「かわいい」と思いつつ、一瞬何かが脳内を走ります。それは人類の歴史をみた、と思ったからです。400万年以上前、直立二足歩行を始めた猿人は、まず、両手があいたため、手で道具をつくるようになり、それまで顔の両側についていた眼が顔の前面に並んでつくことになり、両眼視という遠近自由焦点操作が可能になり、頭部の肥大化から脳の発達へと結びついたのです。この歴史事実をレッサーパンダが再現したのではないかと思い、そこに一瞬「懐かしい」という感覚に襲われたのです。「かわいい」と発言する奥底に、人間の遠い古い原点過去という「懐かしさ」を感じました。

はじめてなのに懐かしい

どうも愛知万博には妙な感覚が備わっているような気がしてなりません。各地に出かけてみつける新しい変化ではなく、「はじめてなのに懐かしい」というような人間の奥底に存在し、引っかかるもの、その部分が万博会場にあるような気がしてなりません。それが何であるか。具体的に指摘することは難しいのですが、人間の奥底に存在する何かの感覚、未来の世界が向かわなければいけない時代感覚、それが愛知万博会場にあるように感じます。以上。

投稿者 Master : 2005年06月06日 16:28

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