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2005年04月01日

2005年パリ農業祭視察報告 その2

(2)現地のマスコミの取り上げ方
●シラク大統領来る
2月26日(土)はシラク大統領が来場したこともあったのだろう、ホテルに戻った夜TVを見たら農業祭の様子が放映されていた。期間中70万人が訪れる予定とのこと。
会場にはTVスタジオも設けられ、関係者の対談を収録していた。
雑誌の関係ではTribune verte、農業専門雑誌 L‘INFOMATION
AGRICOLE,同じくLE LIENが特集を組んで紹介している。
小生が宿泊したホテルのスタッフに聞いた際、農業祭については詳しいことは知らないようだった。またパリに長く住んでいる主婦に聞いたところ、「一度行ったことはある。売っているものが安かった記憶がある」とのことだった。
農業祭最後の日は農業大臣が出席する。

(3)外国人にとっての見所
第一は家畜、特に牛の大きさだろう。巨大の一言に尽きる。このような大きさの牛は私が知っている限り日本にはいない。なぜこのように大きいのだろうか。とにかく迫力がある。また牛の種類の豊富さにも驚いた。
第二は環境問題への取り組みだ。天敵を使って野菜の害虫を駆除する方法。バラを囮に使って葡萄の害虫を集めるやり方。このようなやり方がどの程度普及しているのだろうか。そして菜の花など植物性油を使った自動車の排気ガス対策。日本でも始まっているが、フランスでの普及状況はどうだろうか。
第三はワインの試飲。各地のワインを試飲できる。イタリア、ハンガリーからも出品されている。ワイン好きにはたまらないコーナーだろう。このワイン・ホールは特に賑わっている。ワインを楽しむ人々の表情が特に印象的だ。小生も何軒かワインを梯子した。
第四は展示物の見せ方が中途半端ではない、ということだ。とても分かりやすく工夫されている。例えば牡蠣の漁で使う船が持ち込まれている。サイズ的には決して小さくはないのだがよく運び込んだものだと思う。パネルとか絵、そして実際の養殖設備を展示しているので、フランスではどのように牡蠣を養殖、収穫しているのか一目瞭然ということになる。これは特に外国人にとってはありがたい。
第五はフランス各地の物産が見られることだ。実際見ていて飽きない。フランスは日本以上に各県が細かく分かれている。各県自慢の産物が並べられている。

(4)農業祭視察を通じての感想
今回視察の目的は、フランスは農業大国と言われているが、それを実際に確かめてみたいということであった。3点について感想を述べたい。

①子供達への農業実物教育・・・農業は国民全体の関心事
農業祭の活況振りからもそれは窺えた。参加者の中に家族連れを多く見かけた。パリ市内及び市外に住んでいる子供達にとっては家畜、穀物、野菜・果物、魚類・海産物を直に見る良い機会なのかもしれない。動物達にごく自然に手を出して、触れ合いを喜んでいる子供達を見て「実物教育」という言葉が頭に浮かんだ。これからのフランスの農業を背負って立ち、農業大国としてのフランスを守り続けるために、この農業祭は大いに役に立っていると感じた。
また子供達を飽きせない工夫もされている。オブジェ風の針金に、触れないで手に持った棒を最後まで通過させる「触ったら駄目」ゲーム。野菜・果物コーナーでは子供の顔にペインティングをしていた。2人の若い女性が子供達に話しかけながら、絵を仕上げていた。また穀物とか乾燥野菜を使った塗り(貼り)絵などもあった。
見た限りでは泣いたり、むずかったりしている子供はいなかったようだ。子供達にとっても楽しい農業祭なのだろう。
最近フランスでも農家の後継者問題があると聞く。農家の娘さんと兵隊達の日本的に言えば合コンをやって婿取りをしているケースもあるという。

②農業は一国の基幹産業・・・農業はもう一つの国防産業
ヨーロッパ国内は今回のEU結成迄に第一次世界大戦、第二次世界大戦、そして東西ヨーロッパへの分裂とたえず戦争と諸国間の拮抗状態が続いてきた。やや乱暴な言い方になるが、国を守るためには戦うための食糧が十分なければならない。風評によるとフランスには3年分の食糧が備蓄されているとのことだ。またその食糧も外国に頼っていたらいつ何時断たれるかもしれない。フランスは食糧の自給率が139%と言われる。因みに日本は41%で低下傾向にあり早晩40%を割り込むと見られている。EUが拡大していく中、かつてのような戦争はもう起こらないかもしれないが、このフランスの自給率139%という数字にはフランスの国家戦略が見え隠れする。1970年の100%から増え続け、現在は130%台を維持している。万が一戦争が起こっても糧秣が不足する恐れがないという安心感があれば、国民は自国を守ることにいささかの躊躇も覚えないだろう。従い農業は国防という側面も色濃く持っているのではないかと思う。
18世紀に民主革命を行い、その後王制、共和制、帝政、その後第三共和国に達したフランスは煮ても焼いても食えないしたたかな近代社会を構成したとある哲学者は述べているが、小生はそれとは別の視点からしたたかさを感じる。それをパリの建造物から感じた。まずパリの地下鉄だ。これは市街戦になった時、この曲がりくねった地下通路を使って戦うことができるだろう。石造りのポン・ヌフの橋。すでに建造後400年経過しているという。訪れた時一部仮囲いを建て、工事中だったが、現在も使われている。度々修理しているようだが、それができるのも基礎がしっかりしているからだ。
また1889年に建てられたエッフェル塔。コンピュータの無い当時、どのようにして構造計算をしたのだろうか。想像もつかない。近くで脚部の莫大な数のリベットを見回しながら、リベット打ち作業がどのように足場を組んで行われたのか考えたが、これも小生の想像をはるかに超えていた。
そして今日もエッフェル塔は悠然と聳えている。
最後にノートル・ダム。その巨大さだけではなく細部にも圧倒された。
このような建造物をつくりあげる精神の組織力と技術の組織力をパリで初めて実感することができた。こうした先を見据えたものの考え方、緻密な思考、どのような事態にも対処していける柔軟さと堅固な意思は、恐らく人間にとって一番大事なこと、つまり食べること、食糧、そして農業に一番はっきりと、最も根本的に発揮されるのではないだろうか。(そしてここでは触れないが文化にも)
政府が良い意味でしたたかであるということは国民にとって歓迎すべきことだ。勿論それに拮抗できるしたたかさが国民にも求められることは言うまでもないが。
自分の国は自分で守る、守り抜く。この気概を農業祭からも感じたと言ったら少し言い過ぎになるだろうか。

③農業は環境産業・・・自然生態系の活用
今回の農業祭で小生の目を引いたのは環境問題への取り組みだった。天敵を使った害虫の駆除、バラの花を使った害虫の誘導、そして菜の花の菜種油を燃料の50%とする環境自動車の展示。これから農業分野でもこのような取り組みはゆっくりと広がっていくのではないかと思うし、またそうあってほしい。
農村の美しい自然風景を求めて観光客が訪れる。日本では農薬を多量に使うことが後継者難の一つの大きな理由になっている。なぜなら子供達は親の健康障害を見ているからだ。
フランスの国土に展開する広大な農地と森。名実共に美しい自然風景を見たいというのは観光客も含め多くの人々の願いだろう。

投稿者 Master : 2005年04月01日 21:00

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