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2005年03月21日

本籍地と現住所

YAMAMOTO・レター
環境・文化・経済 山本紀久雄
2005年3月20日 本籍地と現住所

温泉治療に携わりたい
「笑う温泉・泣く温泉」の読者から、長文の手紙が出版社経由で届きました。内容は「一気に読んだ。この本の中に探していたものがあった。自分の心の中を整理させてくれ、求めていたものを明確にしてくれた。今は学生だが、将来は温泉治療に携わり、自然の治癒力による力で社会に貢献したい」というものです。

書店の旅行コーナーに並んでいる、一般の温泉本には共通性があります。それは温泉水の効能効果よりも、「温泉の楽しさ」を伝えること、つまり、景観とか、旅館の施設、料理の豪華さ等の特徴に主点がおかれていることです。しかし、「笑う温泉・泣く温泉」は専門書の分野に入ります。日本図書館協会推薦図書になったのも、内容が専門的だからです。
手紙を書いた若い女性は、幼いときからニキビ・アトピー等で苦労してきて、その治療として温泉が有効であると聞いていたが、その治療が現実にヨーロッパで行われている実態を「笑う温泉・泣く温泉」で初めて詳しく知り、日本でも同様の温泉治療を普及させたいので、その方向に向かうための勉強をしたい。ついてはその勉強機関を教えてほしい。との希望も書いてあり、温泉治療に詳しい専門家を紹介いたしました。
出版した本が若い人の未来に影響を与えたということ、著者として望外の喜びです。

目の前の情報
民営化と共に「新東京」という冠名前が消えた、「成田国際空港」からパリに向かいました。パリのド・ゴール空港に飛行機が着陸し、ボーディングブリッジへたどり着くと、「客室乗務員はドアモードをディスアームド・ポジションに変更してください」と機内アナウンスが流れます。これはどの航空会社でも必ず流すアナウンスです。
このアナウンスが流れると、乗務員がドアに何か作業するのですが、今までこの作業は、多分「ドアにかかっている鍵を外しているんだろう」と思っていましたが、山本塾に出席するスチュアーデスの方からお聞きし、初めてこのアナウンスの意味が分かりました。
それは「ドアに取り付けられた緊急脱出用の装置を解除するため」だったのです。ドアの内部には「緊急脱出用の滑り台が収納されている」ので、ドアを開けると同時にガスが充填され、自動的に滑り台ができるようになっているのです。ですから、緊急時でないとき、つまり、空港のボーディングブリッジへたどり着いたときには、この緊急脱出用の装置を解除することが必要なのです。そうしないと高圧ガスによって、10秒で膨らむようになっているので、ドアの近くにいる人はとても危険なのです。
飛行機に乗るたびに目の前で行われる光景、その意味を分からないまま長いこと過ごしてきました。分かってみれば成る程と思うことでも、漠然と事実ではないまま勝手に認識していることが多いと、今回、改めてド・ゴール空港で感じた次第です。

サン・ジェルマン・デ・プレの書道塾
パリの中心、サン・ジェルマン・デ・プレの交差点はいつも喧騒に満ちていますが、そのすぐ裏手にある「カリグラフィス」という書道教室は静かです。ここでフランス人が書道を習っているのです。一昨年、フランス人からもらった一冊の本、それはフランスで最も美しい本として表彰されたもので、書道の本でした。書道が人気なのです。
フランス人が書道をする理由、それは「書かれたものが言葉として何を意味しているかは分からないが、スピードの対極にある書道は癒しになる」という理由が多いのです。
確かに、日常の生活とかけ離れたこと、それが大きな魅力であって、「カリグラフィス」は人気なのですが、今回、その書道教室をやめたフランス人の声を聞くことが出来ました。
なぜやめたのか。それは「熱心に書き、上手く書けていたが、結局書いている字の意味が分からない、ということに改めて気づいた。分からないものを書いても空しい」というのです。何となく実感として分かり、行動の意味づけの大事さを再認識しました。

ゲランドの塩
昨年に続きパリの農業祭を視察し、加えてブルターニュのゲランドに向かいました。
目的は世界に冠たるブランドとして確立しているゲランドの塩田視察です。
モンパルナス駅からTGVで約3時間、冬のゲランドは塩田の補修作業の毎日です。塩の生産は6月中旬から9月中旬までの3か月間、その生産方法をサイエ村の「塩職人の家」で、塩職人の「イヴォン・モランドー」氏から説明を受け、塩生産の塩田模様をモデルルームで見学しました。
その生産方法を一言でいえば「完全なる自然」です。海水をゆっくりと勾配五千分の一で、水を通す穴は鉛筆の太さという、異なった五つの池を回遊させていくうちに、海水が天日で蒸発し、最後にたどり着くオイエ(採塩池)では塩だけが残り、それを掬い取るのです。ですから、海水の蒸発を天日だけで行うのですから「天日塩」というのです。
この「天日塩」というネーミング、それを単なる品名に近いものだろうと理解していましたが、ゲランドの現場で初めて「天日塩」という意味を理解しました。現代の科学社会の中にあって、ゲランドは完全なる自然有機生産であるという意味、それが「天日塩」というネーミングの背景にあること、それを、初めて現地で知り深く頷いたのです。

宮古島の塩
日本に戻りましたら、近所の方が宮古島に行かれて、そのお土産に塩をいただきました。
説明を読んでみますと「ミネラル成分の含有量18種類は世界一でギネスブックに認められた」とあります。早速、電話して成分表をFAXしていただき、ゲランドの成分表と比較してみました。確かに宮古島のほうがミネラル成分が多く、ギネスブック掲載は嘘ではありません。
次にパンフレットに図示してある生産方法をみますと、そこには「海水を熱し塩分の濃度を高めて、水分を瞬時に蒸発させる」とあります。人間の科学力によって塩を採り、それも一年中安定した塩生産を可能なシステムにしているのです。
また、その塩は細かにパウダー状になっていて、手にとると粉のようなやわらかく、食感もよく、使いやすさという点ですばらしく、各成分がどのような効能効果があるのかという説明も明確です。その上、容器もしっかりした瓶ですので、そのまま食卓におけます。
成る程、宮古島の塩はさすがに工業国日本製で、工業的安定生産によって品質管理状態も瓶詰めで問題ないと納得したところに、宮古島から電話がありまして「FAXは届きましたでしょうか」という親切さです。さすがに日本の客対応は見事です。感心しました。
一方、ゲランドはどうか。ゲランドの「フルール・ド・セル 塩の花」という最もよい塩は、密封したビニールに入れ、その上から布袋包装しています。密封ビニール袋を開けますと、再び密封出来ませんので、全部ビニールから取り出せる大きさの瓶に詰め替えなければいけません。また、自然のままですからパウダー状ではなく粒状です。

本籍地と現住所
困ったことが生じると、人は何かに頼りたくなります。苦境に陥った経営者の多くが採る行動パターンがあります。まず、最初は仏壇に手を合わせ出します。いままで仏壇に線香もあげなかったのに仏壇を拝み、次に座禅に挑戦し、幹部に厳しいはっぱをかけ始め、寝酒を飲みだし、夜中に悪夢にうなされるようになっていきます。ホッとするのは、同業経営者との飲み会で、その経営者の方が自社よりも悪い経営状況だと知ったときだけですが、このような現住所状態では本質的な経営改善は出来ません。
苦境を乗り切るためには、自らの仕事の原点から考え直さねばならないと思います。自分の仕事の原点としての本籍地、その自らの本籍地を強く認識しながら、今の「現住所としての仕事に献身」する姿勢が大事なのです。これは人の生き方にも通じることです。
そのためには、飛行機客室乗務員が行う目前の行動意味を、よく分からないまま漠然と認識したままにすることや、意味不明の字を書にして空しくなるフランス人の事例のようなことは、なるべく行わないことが大事であると思います。
ゲランドと宮古島の塩生産方法は、自然と科学という両極に位置しています。どちらの塩を好み、食するか、その判断のための情報は、ゲランドも宮古島も、つくり方からミネラル成分量まで明確に表現しています。原点からの本籍地情報を公開しています。
若い女性からの手紙、いろいろ探してようやく「笑う温泉・泣く温泉」に出合ったとあり、読み終えて未来への方向性が定まったということの意味、それは今まで漠然と想い探し求めていたこの読者の原点・本籍地、それを暗示できたのではないかと思っています。以上。

投稿者 Master : 2005年03月21日 12:43

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