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2005年01月14日

ミクロを変えてマクロを変える

YAMAMOTO・レタ−
環境×文化×経済 山本紀久雄
2005年1月5日 ミクロを変えてマクロを変える

新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます。

(日本の進むべき道)
昨年最後の日経新聞「やさしい経済学」は、野村総合研究所研究理事の富田俊基氏の「日本が進むべき道」の最終回で、日本政府が抱える膨大な財政赤字の解決方法として次のように述べています。

「歴史的にみて、国債が著しく巨額に達したときは次の三つの解があった。第一は財政再建である。第二にインフレを起こして国債残高の実質価値を減じようとする政策であるが、これを実行しようとすると市場はそれを察知し、資金は海外に流出する。これに伴い金利が急上昇して経済活動が打撃を受け、結果としてインフレは抑え込まれるだろう。第三はデフオルト(債務不履行)という国債の元利払いをしない等の支払条件を強制的に変更する政策を採ることであるが、この場合は国の信用が国内外で低下し、その後は国債発行がほぼ不可能になるほど高い金利を求められよう。したがって、国の信用の歴史は、今日の日本には財政健全化の道しか残されていないことを物語っている」
つまり、日本の財政赤字解決は、地道に進める財政再建という方法しかないのです。

(蔵王温泉)
「笑う温泉・泣く温泉」に対して温泉旅館の方からご連絡をもらいました。「世界の温泉利用観光客を誘致していくところに、未来の温泉業界発展の鍵があることを承知しているので、今回の本はとても参考になった」という内容です。このご連絡は宮城県の東鳴子温泉の「旅館大沼」の大沼伸治氏で、温泉業界では知られた若手改革者です。このような改革者によって、日本の温泉地がヨ−ロッパに負けない環境となって、世界中から観光客が訪れることで、日本が観光立国大国になり、人口減少社会日本の経済に大きな効果をあげることが出来るよう、関係各部門へ今後も研究し提案していくつもりです。
その温泉研究の一環として、年末に山形県蔵王温泉に行ってまいりました。蔵王温泉を訪れたのは40年ぶりでしたが、相変わらず雪景色の美しい温泉量の豊富なすばらしい温泉地です。宿泊したところは著名なリゾ−ト施設企業が経営しているチェ−ンホテルです。ですからフロントの応対から食事の内容を含め納得のいくサ−ビスであり満足しました。
ところが、一つだけ不審に思ったことがありました。夕方到着して直ぐに向かった一階の大浴場、その脱衣場に掲示されている「温泉分析書」を読みビックリしました。山形衛生試験所による分析で、その分析内容は大きく詳細に書かれていますのでよく分かりますが、その分析年月をみて驚いたのです。何と分析したのは昭和33年(1958年)なのです。今から47年前の分析結果が堂々と壁に表示され、その昭和33年4月の分析日が「天気晴れ」と書かかれているのが白々しく感じます。
この情報化の時代、新鮮な情報が常識の時代、毎日、大勢の客が利用している温泉水の分析が47年前のままでよいのか、という素直な疑問が生じます。世の中の変化と共に地下の変化もあり、温泉水の成分変化も当然生じているのですから、今の実態を正しく利用者に提示することが温泉施設の情報提供義務です。しかし、この一流ホテルの大浴場は設備とサ−ビスは立派ですが、肝心要の温泉水が現在の姿ではない47年前の分析結果をそのまま表示しているのです。温泉偽装問題が大きく取り上げられ、温泉水情報の正しい表示の重要性は知っていても、実際の現場ではまだまだ問題への意識が薄く対応出来ないのです。残念です。

(喜多方と高山)
蔵王に行く途中、福島県の喜多方に寄りました。これで昨年は喜多方に二回訪れたのですが、この喜多方は蔵とラ−メンの町として有名です。
また、昨年は岐阜県の高山にも参りました。高山は山岡鉄舟が子供時代を過ごしたところですので、鉄舟研究会の仲間と行き、地元の仲間にご案内いただき、じっくり街並みを楽しみました。高山も喜多方も古い町として人気がありますが、両方を比較して気がついたことがあります。それはミクロな視点です。
ご存知の通り、高山は「訪れてみたい町のナンバ−ワン」として高い人気があります。その人気の一つに江戸時代からの古い町並みがあります。四百年前の町割が変わることなく残っていることに加えて、二階建ての木造切妻造り、ゆるやかな屋根勾配、深い軒と格子や柱の調和が美しく、また、そこに設置されている看板や暖簾などの形や色調も規制し、電灯は白熱灯にする等の街づくりがおこなわれ、旅人を惹きつけているのです。
一方、喜多方は蔵が多く、その蔵では酒造りがいまでも行われて、蔵の中に古い美術品も多く展示されていて、それを見ていると時間の経つのを忘れるほどです。更に、ラ−メンの味に惹きつけられ多くの観光客が訪れる人気の町です。
お互いそれぞれ特徴があり、魅力があるのですが、明らかに異なっている個所は店舗の回りではないかと気づきました。お互い家並みや店舗・蔵は同じように魅力がありますが、違っているのは店舗や蔵を一歩出たところの整頓度、つまり、街並みの清潔さです。
喜多方の中心街の路地を一歩入ってみると小さな神社がありましたが、その鳥居の回りにゴミが散らばっていて、その近くの店舗出入口回りも同様状態でした。勿論、大量に散乱しているのではなく、少しのゴミなのですが、それは高山ではみかけないのです。
気にしなければ気にならない程度のゴミです。しかし、その程度のゴミであっても、それがある状態と、そうでない状態では、住民の環境美観に対する現実の認識度を示していて、そのようなミクロな感覚意識差が両街の集客力の差となっていると思いました。
(日本の競争力ランキング)
今日の財政悪化の最大要因は、バブル崩壊後のマクロ経済政策として、毎年多額の赤字国債を発行し、需要の創出を狙ったのですが、結果は経済活動は活性化せずに膨大な財政赤字だけが残ったのです。特に橋本内閣の後を受けた小渕内閣のときには、財政が一気に悪化し「大借金を残した首相だ」と小渕首相が自ら述懐しました。時代は「非ケインズ効果」の経済環境に変わっていたのに、過去成功したケインズ経済政策の踏襲で対応したこと、それが失敗の一大要因でした。時代の変化を気づかなかったのです。
その日本経済がよくなったのはつい最近です。長いこと苦しみました。よくなった要因の第一は企業の利益向上です。大企業中心にリストラを行って、自らの経営体質を強化し、利益が確保できるようになり、その結果として設備投資が活発化し、日本経済全体に好影響を与えたのです。勿論、米中への輸出増加という効果があったことも大きい要因ですが、基本的には企業自らの経営努力で経営改善し、その結果としてGDP成長に貢献したのです。
更に、日本企業が強くなった背景には情報収集力と調査企画力の向上もあります。輸出企業が外国との競争で弱いところを克服していったのです。80年代、日本企業の強さは何であったか。それは品質と納期の正確さでしたが、弱かったのは情報収集力と調査企画力でした。それを克服したことも日本の企業が変化し全体の国際競争力を上げた理由です。
その変化実態は外国調査機関の評価が示しています。毎年開催されているダボス会議での、国際競争力ランキングがその変化を物語っています。日本は80年代の好調により、93年までは競争力ランキング第一位でした。ところが94年は第三位、95年は第四位、2000年には一気に第二十一位と没落しました。2001年も二十一位でした。このときは世界から日本はもう沈んだともいわれたのですが、しかし、2004年には第九位に上昇しました。主な理由は企業利益向上によるものです。企業の努力改善というミクロの変化で、国全体のマクロの競争力ランキングを上げ得ることができたのです。

(ミクロの変化でマクロを変える)
インタ−ネットのおかげで必要な情報の殆どは机の上で入手できます。それも質的に揃った内容を無料で受け取れるのです。ということは世界中の人が求めようとするならば、同じ内容と質の情報が一斉に同時に手に入れられるのです。多くの人が瞬時に平等に獲得できるのが現代の情報です。ですから、問題は簡単に認識できる状態にあります。ところが、人の行動の結果には大きな差が生じているのです。
温泉偽装表示問題を認識していても、蔵王のホテルのように47年前の温泉分析書のままでは観光立国は難しいと思います。喜多方が高山を上回る観光客を受け入れるには、住民の身近な清潔度意識を高めないと難しいと思います。日本の膨大な財政赤字改善には奇策ではない真っ当な財政再建政策を採ることしかありません。2005年にこれらの改革大変化を求めるためには、いずれも現場におけるミクロ視点の一歩から改善することが前提条件です。
これは2005年に大変化を求めようとする個人にも、当然、当てはまることです。以上。

投稿者 Master : 2005年01月14日 17:18

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