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2010年09月22日

日本のONSENを世界ブランドへ・・・その二

環境×文化×経済 山本紀久雄
2010年9月20日 日本のONSENを世界ブランドへ・・・その二

クローゾン氏の講演内容

9月13日・14日・16日と東京・鹿児島県指宿で開催された「日本のONSENを世界のブランドへ」シンポジウムでの、クローゾン氏発言概要をお伝えします。

40℃前後のお湯に浸かる習慣は欧米にない

クローゾン氏の温泉との出会いは1982年。仕事を終え大分県・湯布院を訪れた彼は、すぐに温泉の持つ魅力に惹かれました。それは、温泉地の風景、日本の美しい風景と日本旅館の調和、周辺の情緒ある田舎道の心地よさなどでした。
さらに彼に強烈な印象を与えたのは、温泉に入るということ、そのものでした。40℃前後のお湯に浸かるというのは、欧米の習慣には全くないわけです。だが、入浴してみると、初めてでありながらとても心地よく、この素晴らしい体験に魅せられ、以来、彼は来日のたびに各地の温泉を巡り歩いています。
 
温泉は異文化の塊だ

日本は全国どこに行っても温泉がある。これは素晴らしいことだ。と彼は強調しました。また、その温泉が源泉を中心に旅館・ホテルが多く立ち並び、一つの温泉街として成り立っている姿、これは欧米の街づくりとは異なった特殊な形態なので、その中を散策しているとさらに興味が深まってくるというのです。
これをひと言で表現すると、温泉街には欧米にない「異文化」があるということになります。日本の温泉地には、欧米にない温泉文化があり、温泉が人間社会に溶け込み、日本人の生活習慣となっていること、それが日本を訪れる外国人にとっては「異文化」として映るのです。
加えて、その異文化の温泉街の中は「日本の魅力をいくつも同時に体験できる場」であるとも強調しました。例えば、自然に溶け込んだ宿の佇まいの美しさ、きめ細やかな接客と共に提供される美味しい日本食、そして、人の素晴らしさ。これは女将のおもてなしのことですが、その女将が着物姿であること。これらが相まって、これほどの日本の伝統美をいくつも重なって感じられるところは温泉しかないというのです。
 しかも、このような魅力に溢れた温泉が、日本全国いたるところに存在していることが、これまた素晴らしいと、彼は絶賛します。
ところが、一般の欧米人はこのような「異文化魅力」が集約された温泉を、全然知らないというのです。日本に行き、温泉を訪問すれば、日本文化が重なり合って感じられるのだから、その事実をもっともっと欧米人に知らせてほしい、と彼は何度も強調しました。

フランスは日本ブーム

さらに現在、フランスは日本ブームです。パリ在住の彼はこれを肌で感じています。特に、その火付け役となっているのは日本のアニメーションであり、それを受け入れブームを牽引しているのは10〜20代の若者ですから、彼ら熱狂的な日本ファンの若者が成人し社会人となったら、きっとバカンスで日本を訪れるようになるといい、彼らは将来の貴重な来日予定者であり、将来の温泉ファン候補でもあるともいうのです。
また、若者だけに限らず、日本に関する文化が各場面で活用されている事例を映像でいくつも紹介しました。

日本側が準備すべき事

最後に大事なポイントを語りました。欧米人が日本を訪れるために、日本側が準備すべきことです。
 それは、欧米人に合わせて設備を整えることではありません。そのことはむしろ温泉の価値と文化を自らの手で壊すことを意味します。そのままでいいのです。そのままの姿が「異文化」であるから、欧米人はそこに大いなる魅力を見出すのです。
 では、現在、何がなく、これから必要なものは何かです。
 それは、温泉の魅力を知らせるもの、すなわち、温泉ガイドブックを作ることだと主張しました。温泉とは何か、温泉の入り方、温泉の楽しみ方、温泉旅館の特徴、予算に応じて楽しめる温泉地あれこれなど、それらをまとめて書かれたガイドブックが欲しい。
これは各地の温泉旅館・ホテルの紹介ガイドではなく、日本の温泉という世界の特殊性である存在物を、全く知らない欧米人に伝えるガイドブックです。
このようなガイドブックが、温泉を世界ブランドにするためには、まず、最初として、基本的に用意されるべきものであるというのが、クローゾン氏のまとめでした。

現在の観光業界PR活動 

 ここで改めて、観光業界と温泉業界の取り組みを振り返ってみます。
親しい温泉地の女将さん、時折、香港とかパリにPRに出かけ、観光業界の集まりとか、旅行業者への訪問し、着物姿でイベントとしてお茶のお手前を披露しながら、温泉の紹介をしているようです。
 このご努力は認めつつも、訪れた世界各地の観光・旅行業界人は、日本の温泉についてある程度知っているでしょうが、クローゾン氏のような日本について事前知識を持って、日本に関する専門家になろうとしていたタイミングの時でさえも、湯布院で初めて熱い湯を体験するまで知らなかったというのですから、一般の欧米人は温泉を見たことも、触ったことも、聞いたこともないというのが事実実態なのです。
 この事実実態に立って、日本の温泉関係者は「日本のONSENを世界ブランドへ」と行動してきたのでしょうか。どうも違うように感じます。
 日本ではテレビで毎日のように有名人を使った温泉入浴場面が放映され、旅行するということは温泉に泊まるということと同意味みたいになって、日本人の生活に根ざしていますが、欧米人はこの反対の極にいるのです。
 ですから、この温泉を知らない人達に日本の温泉に来てもらうためには何が必要か、それをクローゾン氏からまずはガイドブックから始めることだと提案受けたのです。
 考えてみれば全く知らない人達に温泉を説明して、魅力を分かって貰うのですから、その理解のためには基礎的資料が必要です。
 ところが、欧米の書店には観光ガイドブックは並んでいても、温泉のガイドブックはありません。ガイドブックの中に各地有名な温泉の紹介はあっても、温泉そのものの基礎的理解を与えるガイドブックはありません。
 
欧米人の旅行スタイル

欧米人の旅行スタイルを見ていると、必ず片手にガイドブックを持って歩いています。欧米人はガイドブックと現場を確認して行くのが観光であるという習慣を持っています。ということは温泉ガイドブックがあれば、それを片手に温泉に入り、その結果を国に戻ってからクローゾン氏が率直に感じたような、温泉魅力を友人等に伝えてくれます。また、その際に温泉ガイドブックを指し示すことでしょう。
だが今まで、このような基本的ツールとなるべきガイドブックなきままに「ONSENを世界へ」と行動していたのではないでしょうか。
 クローゾン氏のような記者によって、世界から見た日本温泉を説明するガイドブックを書いてもらい、それを欧米の出版社で発行し各国主要都市の書店に並べることが必要です。日本の出版社では世界的書店ルートがないので無理なのです。
また、この実現は多分、観光業界や温泉業界に任せておいては実現が遠い先でしょう。観光庁が音頭をとって進めることが日本のONSENを世界のブランドにするために必要なことだと思います。
世界から日本を見れば、日本は魅力たっぷりな財産がたくさんある国ですから、それを情報化することが喫緊の課題です。

観光庁に提案する

 クローゾン氏の見解と提案について、今回のセミナーでご参加された多くの方も同意見ですので、世界の書店に配本ルートを持っている欧米の出版社から「日本の温泉ガイドブック」を刊行するための企画書をもって、近く観光庁に提案に行く予定です。以上

投稿者 Master : 2010年09月22日 08:53

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