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2010年09月08日

日本のONSENを世界のブランドへ・・・その一

環境×文化×経済 山本紀久雄
2010年9月5日 日本のONSENを世界のブランドへ・・・その一

シンポジウムの開催

9月の日本は猛暑続きで秋はまだまだ遠い先ですが、パリはもう10月以降の寒い気候になっています。その寒いパリからフランス人ジャーナリストのリオネル・クローゾン氏を迎え、東京で13日と14日の二日間、鹿児島県指宿温泉の白水館で16日「日本のONSENを世界ブランドへ」というテーマでシンポジウムを開催します。
今回の開催は私が代表を務める「経営ゼミナール」と、経営者へ情報提供業務を行っている「清話会」、それと指宿温泉の「白水館」との共催で進めていまして、開催のご案内を各地にいたしましたところ、お陰さまで高い関心を呼んでいます。

クローゾン氏招聘の背景

クローゾン氏を招聘しようと考えたきっかけは、昨年三月ミシュラン観光ガイドブックのグリーンガイド日本版の発売でした。それをパリの書店で求め、三ツ星となっている日本の温泉はどこかと探しビックリ仰天しました。日本では無名に近い別府の「ひょうたん温泉」が三ツ星になっているのです。一方、日本で成功して最も元気だといわれている、あの有名な群馬県草津温泉は無印です。
これは、どういう評価で星付けをしたのだろうかと疑問をもち、早速にひょうたん温泉に行き、温泉に入ってすぐに選定理由が推測できました。それは「欧米の温泉地はすべて共同浴場なので、ミシュランの星付け担当者も自らが持つ温泉常識感覚で、共同風呂のひょうたん温泉に三ツ星を付けた」と推定したわけです。
しかし、これはあくまで推定ですので、実際に観光ガイドブックの編集に携わる人物に直接会って、星付けの判断根拠を確認しようとパリで伝手を求めて探しているうちに、ブルーガイド(仏アシェット社発行旅行ガイドブック)の記者であるクローゾン氏と出会ったのです。

伊豆湯ヶ島温泉・白壁荘のシンポジウム

その後何回かパリに行くたびにクローゾン氏と会い、話し合っているうちに、彼の見解を日本で発表してもらうことが、日本の観光業にも、温泉業界にも役立つだろうと企画したのが今年の4月、伊豆湯ヶ島温泉・白壁荘のシンポジウムでした。
ところが、この時大事件が発生しました。それはアイスランドの大噴火です。この影響でヨーロッパのエアーは全便運航不能となり、クローゾン氏は来日できなくなり、白壁荘のシンポジウムを取りやめようかと思いました。
しかし、時代は変化しています。インターネットの素晴らしさで危機は克服できました。クローゾン氏から発表する資料を急遽送ってもらい、それをパリ在住の柳樂桜子さんがちょうど日本に滞留、彼女は逆にパリに帰れないということで、彼女にクローゾン氏の代講をお願いしたところ、分かりやすく、具体性ある内容での発表が行われ、参加者から大変高い評価をいただき、危機をチャンスに切り替えることができました。

関係者と接して感じたこと

 今回、再びクローゾン氏のシンポジウムを開催するにあたって、その準備も兼ねて日本の観光業界や温泉業界の方々に多くお会いしました。
中には世界各地に出かけ、日本の温泉について講演をされている著名な温泉人もおられましたが、これらの人たちとお話をしていて、何か共通するものがあるなぁと感じました。
勿論、日本の温泉についてとても詳しい。また、欧米の温泉地についても結構詳しい。団体で研修目的の視察を主要温泉地に行かれているからです。
しかし、何か引っかかるものがあります。それは何だろうかと考えているうちにようやく分かったことがあります。
加えて、直接には接してはいませんが、新聞や雑誌に掲載されている日本の観光大国化への提言を書いている人たちの内容を読みましても、今回お会いした人たちと共通する感じを受けます。それは何か。
それは「欧米人も温泉についてある程度知っている」という前提で発言しているのではないかと気づき、ここに引っかかったのです。
欧米人は40℃前後のお湯に浸かるという習慣が全くないわけで、日本の温泉に来て初めて知る「未体験」の存在物なのですが、その事実を余り強く認識していなく、漠然とした感覚で受けとめているのです。

ヨーロッパの温泉利用者は人口の1%足らず

その実態を「笑う温泉・泣く温泉」(山本紀久雄著)から紹介します。
「ヨ-ロッパ(ロシアを除く)には1,500か所の温泉がある。ドイツに320か所、イタリアに300か所、スペインに128か所、フランスには104か所、この四か国合計で852か所となり、全体の57%を占めている。
ヨ-ロッパ全体で年間約1350万人がこの1500か所の温泉を訪れる。このうちドイツには1000万人訪問しているので、ドイツは全体の74%を占めている。イタリアには100万人で全体の7.4%であり、35万人から61万人がフランス・スイス・フィンランド・スペインに行っている。
 ドイツの人口は8233万人であるから、人口の12%の人が温泉を利用していることになるが、他のヨ-ロッパ16か国の温泉を利用した人は350万人であるので、該当国の人口3億5000万人に対しては1%に過ぎない」
 このようにヨーロッパではドイツだけが傑出した温泉利用国であり、その他の国の人々はヨ-ロッパの広い地域に、1500か所しかないのですから、温泉に行くということは一般的には遠距離の旅になり、温泉地は空気が清浄で緑多き山地や高地・丘陵地に立地していることが多いので、温泉へ行くには大変な費用と時間がかかります。
その上、ヨ-ロッパの温泉で入浴する目的は病気療養と保養の場ですから、「つかる」ばかりでなく「飲む」「吸入」「運動浴」「蒸気浴」「泥浴」などバラエティに富んだ場として確立しています。
 また、温泉療養を受けるということは、健康保険制度の適用を受けることにつながっていて、近年、各国とも政府財政の苦境から、健康保険適用の範囲が制限されるようになってきましたが、基本的には温泉医の指導に基づいて、健康保険適用によって温泉療養をする場が温泉ですから、ドイツ人を除けば国民の1%程度しか温泉を利用する人がいなく、限られた人のものとなっているのです。
つまり、99%の人々は温泉を利用していないというのが実態なのです。

ある高名な政治家の質問

かつて南ドイツのフライブルグにある温泉で、日本の代議士数人を含めた団体が視察に来ているのと一緒になり、折角の機会ですから団長に申し入れし、視察に同行した経験があります。
このフライブルグの温泉はリューマチの治療専門です。代議士の中に現在自民党参議員会長の要職にある人物が、視察後のディスカッションで次の発言をしました。
「入浴施設を拝見したが、バリヤフリーになっていない、お年寄りが多いのでバリヤフリーにすべきでないか」と。
日本の有名な代議士発言ですから、ドイツ側は必死に考え、通訳を通じ質問の言葉は理解したが、全くその発言意図が分からず、20分程度会議は中断し、ドイツ側は通訳と立ったまま協議し続け、次のように解答しました。
「当温泉施設はリューマチの治療リハビリ・トレーニングの場なので、当然に段差がないといけないのです」と。
日本の政治家は日本の常識でドイツの温泉場を見て発言し、ドイツ側はドイツの常識で回答したのです。第三者的に見ている私は大変勉強になった事件でした。

世界から日本を見る

日本の観光業界と温泉業界人からも同様な感じを受けます。40℃前後のお湯に浸かるという特殊条件の温泉経験が全くない世界の人々に、日本に多く来てもらうよう対応策をつくるなら「世界から日本を見て」具体的に構築しないといけません。その事の研究が9月のクローゾン氏を迎えてのシンポジウムで、結果は次号でお伝えします。以上。

投稿者 Master : 2010年09月08日 07:52

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