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2010年05月21日

 ギリシャ問題が意味する背景

YAMAMOTO・レター
2010年5月20日 ギリシャ問題が意味する背景

PIIGSとは
PIIGSという五文字が、マスコミによく表現されています。PIGはブタという意味で、これにもう一つIが加わり、最後にSがつきますので、ブタ共という軽蔑的な用語になりますが、これはポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペインの五カ国を意味しています。

誰が名付けたのか正確には分かりませんが、2008年ごろから英米経済ジャーナリストが言いだしたようで、このところ特にギリシャに関する経済問題が報道されない日はなく、PIIGSでもギリシャが世界の注目を一手に引き受けています。

五カ国に共通しているのは財政赤字
PIIGSのGDP合計は、ユーロ圏の四割弱に達しますので、ギリシャを機としてドミノ現象の危険も危惧されています。その危惧される要因は五カ国いずれも財政赤字問題です。
2009年GDP対比の財政赤字比率はポルトガル9.4%、イタリア5.3%、アイルランド14.3%、ギリシャ13.6%、スペイン11.2%となっています。
だが、これまでこれらの問題があったとしても、ユーロ圏経済は一般的に順調であると認識されていました。

ドル・ユーロ・人民元という三極基軸通貨になるという予測は?
ユーロが導入され、既に11年目を迎え、現在16カ国がユーロ圏となっています。
政治を統一しないで、通貨を統合したユーロは、ついこの間まで、成功したシステムだと喧伝され、拡大を続け、これからの世界の基軸通貨はドルとユーロと人民元になる、と予測する経済関係者が多く、円の存在が薄れつつあるという危惧と共に、これらの主張がしきりに叫ばれています。この主張背景には、ユーロが通過流通量では世界一となり、2008年末の世界準備通貨として64%のドルに対し、26%までに拡大され、ユーロ圏以外でもアフリカ諸国で使われ、5億人が常時使用する通貨に成長していたからです。
しかし、ギリシャ問題の発覚で、このような新三極基軸通貨はどうなるのでしょうか。新三極基軸通貨を信じ、外貨準備通貨としてユーロを保有した国々、特にアジアの中央銀行は膨らみ続けた外貨準備マネーをユーロに振り向けていましたから、今回のユーロ安で大損害を被りました。一方、問題だと言われている日本の円が急上昇で、5月20日は対ドルで
91円、対ユーロで113円となっています。明日は分からないというよい事例です。

ギリシャは粉飾紛いの経済数字だった
どうしてギリシャは問題となったのでしようか。実は、ギリシャは国家経済を、粉飾紛いの数字で運営していたことが発覚したのです。
ユーロ圏は政治統合されずに、通貨だけ統一したのですから、お互い自国経済規模にあった通貨供給をするというルールを定めています。
そのルールは、①単年度の財政赤字の比率がGDPの3%を上回ってはならない。②国債発行残高がGDPの60%以下であること。これがユーロ圏加盟国に義務付けられていますが、ギリシャはこの基準を結果的に満たしていないのに、ユーロに加盟したのは、粉飾紛いの操作を行っていたのです。
その操作を簡単に述べれば「通貨スワップ」の手法で、巨額の財政赤字を帳簿上から消してしまったのですが、この操作をアドバイスしたのが米のゴールドマン・サックスです。その状況を英のフィナンシャル・タイムスが次のように報道しています。
「02年、ゴールドマン・サックスがアテネにやってきて、GDPを上回るほどに膨張していたギリシャの公的債務の資金調達コストを軽減するため大規模なスワップ取引をアレンジした。50億ユーロ規模の市場外取引で、円やドルなど外貨建て債務を軽減する『クロス通過スワップ』と呼ばれる手法だった。この手法は借り入れでなく、為替取引として扱われたため、ギリシャ財政がEUの基準をクリアするために役立った。返済を先送りしたのである」
「投資銀行の幹部や政府高官たちは、この取引は合法だったと話している。すなわち、彼らは当時の会計ルールに従っていたし、イタリアやポルトガルを含む南欧諸国でも、他の投資銀行が同じような取引を行っていたというわけだ」

ギリシャの財政赤字
昨年10月の選挙でギリシャは政権交代しました。その結果、前政権の「債務隠し」が発覚し、財政赤字額を修正しました。
GDPに対する財政赤字は、2008年が5%から7.7%へ、2009年は3.7%から13.6%へと、財政赤字ルール3%の四倍以上という異常に大きな修正が発表されたのです。これで一気にユーロは下落し、ギリシャが毎日報道される国になったのです。
考えてみれば、経済力に大きく差がある国が集まって、統一通貨を採用すると、通貨の相場は平均となりますから、経済力のある国はいいが、弱い国は背伸びをせざるを得ないわけです。強国がより強く、弱国はより弱くなるわけです。
このような当たり前のことが、実際にギリシャの粉飾紛いの経済実態が明らかになるまで、世界は気づかなかったのですから、多くの経済専門家も詳しく実態を把握していなかったのだ、と思えて仕方ありません。これはサブプライムローン問題の発生時も同様の感じを持ちましたが、一般的な報道でなされる経済実態情報は十分にチェックすべきという教訓です。

そこに金余りが食いついた
 最近の世界経済は「金余り」現象が続いています。世界の金融資産が増加した契機は、2000年のITバブル崩壊を始めとして、リーマンショク等の対策で、先進各国の中央銀行が金融緩和、つまり金利引き下げを行なったことにあります。
 この「金余り」の使い道はどこに行っているのか。それはほとんど金融取引に向かっているのです。実際の実物経済には回らず、株式や債券、通貨、石油やゴールドに投資されているのです。その事例として米国にお金が還流しているデータがあります。米財務省が5月
17日に発表した3月の国際資本投資統計によりますと、海外勢による長期証券投資(国債、社債、株式)に伴う資本流入超過額は約13兆円と過去最高を示しました。
 このような「金余り」の動きが、今回のギリシャ危機に伴って、どのような動きを示したのか。それはユーロ売りという投機につながったのです。

ギリシャ支援策を打てどもユーロは下落する
 最近の新聞報道から、ユーロ売りの流れを追ってみたいと思います。
① 3月15日ユーロ圏財務相会議でギリシャ支援基本合意⇒3月22日ユーロ売り再燃
② 3月26日ユーロ圏首脳会議でギリシャ支援策合意⇒4月8日ギリシャ国債価格下落
③ 4月27日ギリシャ信用格付け引き下げ⇒NY株213ドル、日経平均も大幅下げ
④ 5月2日ユーロ圏財務相会議で1100億ユーロ融資合意⇒5日6日主要国株下落
⑤ 5月10日EU財務相理事会で7500億ユーロの融資枠決定⇒なおユーロ下落
⑥ 5月19日独政府ユーロ圏の国債空売り禁止発表⇒株とユーロ一段と下落
 この流れを見ますと、ユーロ圏でギリシャ金融支援の政治決定がなされる度に、市場は反対の株安、ユーロ安に動いていることが分かります。

誰がマイナスの動きを仕掛けているか
 20日までの動きを見る限り、世界の「金余り」はユーロ売りに向かっています。空売りして下げ、それを買い戻して利益を獲得する、正にマネーゲームになっていて、政府や中央銀行が対策を打っても、それは投資筋の仕掛け材料として利用されるだけで、解決に結びつかず、ユーロの売りを囃したてる材料になっているのです。
ということは、余りにも膨大なお金が世界中にあることから、そのお金が投資を求めて動きまわって、その格好のターゲットがギリシャであり、この問題は中央銀行が「金余り」金融市場の投機筋に敵わない、という姿を示しているようにも思います。

PIIGSとは誰が言い出したのか
 このような動きから推測できるのは、PIIGSと命名したのは金融市場筋であり、それはこれからPIIGSをターゲットにするぞという暗号ではなかったのかと思うのです。
 「金余り」世界を利用した投資の世界が次の儲けを探してグルグル回っている、それが今の時代だと考えると、財政赤字の膨大な国、日本に向かう可能性を否定できません。以上。

投稿者 Master : 2010年05月21日 11:12

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