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2009年11月06日

2009年11月5日 来てみればわかる

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2009年11月5日 来てみればわかる

タスマニアの特殊性

タスマニア・ホバートの水産局係官から、名刺のデザインの説明について聞いたことの内容は、前回レターでお伝えしました。名刺のスローガンは「Explore the Possibilities」で、直訳すると「可能性を探検する」ですが、一言で述べれば「来てみたらわかる。来なくちゃ分からない」ということでした。

タスマニアは、自然環境を守っていることに絶対の自信を持っている。こういう島全体が環境保全されているところは世界でも少ない、つまり、環境保全面で特殊性があることが、観光としての魅力の源泉になっているという自負心がスローガンに溢れているのです。

日本の特殊性とは

観光として魅力となる特殊性、それを日本に当てはめればどのような要素になるでしょうか。日本では当たり前の普遍性であるが、外国人にとって特殊性となるもの、それは日本の温泉地、それも内湯旅館・ホテルではないかと思います。
そのことを今年の3月に発売された、フランス・ミシュランのガイドブック日本観光版「グリーンガイド」が教えてくれました。グリーンガイドが、日本に数多くある温泉地から三つ星に格付けしたのは、殆ど日本人に知られていない「ひょうたん温泉」と、坊ちゃん風呂で知られている四国松山市の道後温泉本館です。日本全国には、3,000余の温泉があるわけですから、この中から二か所のみが三つ星というのはさびしい限りです。

ひょうたん温泉ツアー

では、どうして無名のひょうたん温泉が選ばれたのか、その要因を探ろうとツアーを企画しまして、温泉研究熱心な仲間と行ってまいりました。
ひょうたん温泉は、別府市内の中心地から離れた鉄輪地区にあり、タクシーで向かいました。タクシー運転手によれば、最近、欧米人の観光客が増え、彼らは路線バスか、徒歩で目的地に向かう人が多く、手にはグリーンガイドやブルーガイド(仏アシェット社発行の旅行ガイド)を持っているとのことです。
さて、到着したひょうたん温泉の駐車場は満車、道路向かい側には葬祭場、その隣はスーパーで、周りは住宅街という市街地に位置し、日本の多くの温泉地が自慢する自然景観とは全く関係なく、全国各地にあるスーパー銭湯と何ら変わりはありません。

グリーンガイド掲載内容

ここでミシュランガイドに掲載された内容を翻訳紹介いたします。
■Hyotan Onsen★★★ ひょうたん温泉
「鉄輪にあり、駅よりバス33番または34番で地獄原下車、営業時間9時〜1時、料金700¥。鉄輪バス主要停留所から東に700メートルにある。
この施設は大変心地よい緑に囲まれている。砂場、露天風呂、館内にはひょうたん形の風呂、サウナ、肩のマッサージ用の滝湯、またレストランもある。家族だけで使用できる露天風呂を予約することも可能」

共同風呂が格付けポイント

グリーンガイドでひょうたん温泉について書かれていることは、これがすべてです。この程度の情報提供で、星を三つ与えているのです。もう少し詳しく書いてもよいと思うのが普通ではないかと考えつつ、料金を払い入りました。
入口から奥に進み、下駄で中庭に出ます。カランコロンと心地良い音色がします。中庭にはテーブルと椅子が配置されており、ここで待ち合わせやちょっとした軽食をとることができます。休憩所を兼ねたレストランも併設されています。男女別に分かれている入口をくぐると脱衣所があります。ここで衣服を脱いで温泉への階段を下ります。館内はとても広々としていて、高い天井に張り巡らされている板は少し隙間が空いていて、柔らかな日差しが差し込みます。中央には大きな木がそびえ立っており、自然の中で入浴しているかのようです。その周りに数種類のお風呂があり様々な入り方を楽しめます。隣には身体をマッサージする滝湯があり、10メートルもあろうかという高さから注がれており、強い刺激を得ることができます。外には大きな空と緑の広がる露天風呂があり、とても開放的な気分で入浴できます。奥には低温、高温二種類のサウナ室があり、体調に合わせて利用できます。別室に砂風呂があり、浴衣を着て熱い砂に入って身体を温めることもできます。
このような各温泉を回り楽しんでいるとき、突如、ひょうたん温泉と道後温泉本館の共通点に気づきました。それは「共同浴場」だということです。そういえば、別府の竹瓦温泉も二つ星ですが、ここも入浴料100円の市営共同浴場です。

日本の温泉地は世界の特殊性

実はここに日本の温泉がもつ、世界から見た特殊性があるのです。
温泉研究者の世界的権威である、ウラディミ-ル・クリチェクが世界の温泉国について次のように述べています。(「世界温泉文化史」1990年)
「統計学を信頼するならば、湯治場は今日、ほとんどヨ-ロッパだけに分布していることになる。1971年の大部の温泉誌では、全体で19か国1,100の温泉のうち、97パ-セントがヨ-ロッパに存在する。以下、中部ヨ-ロッパの枠を越えて、いくつかの特殊な湯治について一瞥してみることにしたい」
とあり、その特殊な湯治として「ロシアの温泉浴と蒸気浴」「フィンランドのサウナ」「イギリスとアメリカで流行の入浴」「トルコとアラビアの入浴」そして「日本、中国、アフリカでの入浴」が書かれています。このように温泉学の権威が「日本の温泉地を特殊性」と断定していることに、意外の感をする方が多いのではないかと思います。
何故なら、日本人は日本を温泉大国と考えているからです。たしかに温泉地の数は多く、温泉を国民の大多数が利用しているですから、その意味では温泉大国といえるのですが、世界の温泉の常識からは外れているのです。その常識の基準は「温泉とは湯治場であり、共同風呂」であるという前提です。
実は、この基準でグリーンガイドが格付けしたことを、ひょうたん温泉の露天風呂の中で気づいたのです。気づいてみれば簡単です。欧米の温泉地は共同風呂しかないのですから、ミシュランの格付け評価担当者は、自らの常識の範囲内の共同風呂を探し、その結果、日本で無名ではありますが、ひょうたん温泉を選んだのです。
背景が分かれば簡単です。だが、しかし、これは日本が観光大国化へ向かうためには大問題です。日本に数多く存在する温泉が、欧米人から見れば、自分たちの常識から外れているということです。ここを何とか欧米人に理解させないと、日本の温泉に多くの外国人が来ません。日本の特殊性を逆に魅力化し、受け入れられるようにすることが必要です。

「来てみればわかる」よう情報編集して特殊性を観光の目玉にする

観光庁の本保芳明長官が、2009年度の訪日外国人旅行客数は前年より二割減り、背景に金融危機は最悪期を抜けたものの、円高傾向が続いていることをあげ、今後の外国人旅行客数増加は中国を最重点課題にしていくと発言しました。(日経新聞09.10.29)
これも大事です。しかし、我々ができる身近な対策も必要と思います。
時折、宿泊する伊豆の温泉旅館、ここには外国人がよく来ています。その人たちに聞くと、日本の温泉は素晴らしいと発言します。勿論、内湯旅館の風呂のことです。
この事実を大事にしたいと思います。経験すれば、知らなかった日本の温泉が好きになるのですから、何らかの方法で欧米人に発信することです。
その発信の大きな要素は、外国の書店に並んでいる外国語の「日本観光ガイドブック」、グリーンガイドやブルーガイドですが、この中で「日本の温泉は、外国には存在しない特殊形態だが、一度経験すれば多くの人がその魅力に包まれる」、つまり、タスマニアの「来てみればわかる」という事例と同じようにすることが必要です。
では、そのためにはどうするか。それは、グリーンガイドやブルーガイドへの情報編集伝達力にかかっているのではないでしょうか。
観光庁が展開する全体的な対策に加え、グリーンガイドやブルーガイド編集部門へのアプローチを個別に具体的に行うこと、それが、実は、日本を観光大国化へ早めるための有効策ではないかと思っています。何故なら、一度掲載されるなら、それは世界中の書店に並ぶからです。その意図で、近々、伊豆の旅館を事例に、グリーンガイドやブルーガイド編集部門に提案しようと思っているところで、その研究会を12月に開催します。以上。

【11月のプログラム】

11月13日(金)16:00 渋谷山本時流塾(会場)東邦地形社ビル会議室
11月14日(土)18:30 山岡鉄舟研究会「生麦事件歴史散策研究会」
11月25日(水)18:00 経営ゼミナール川越・さつまいもビール工場見学

投稿者 lefthand : 2009年11月06日 06:56

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