« 2009年6月20日 生活が変わっていく | メイン | 2009年9月例会の予定 »

2009年06月24日

2009年6月例会報告

経営ゼミナール例会
2009年6月15日
『これからの「日本経済」はどうなるのか』
 株式会社イムラ封筒監査役/経済アナリスト 北川宏廸氏

第352回例会が執り行われましたので、報告いたします。
今回は、日本経済の「外需」と「内需」の関係に注目し、そこから日本経済はどのような方向に向かうべきなのか、を学びました。
reikai090615_01.JPG

**********

ご発表くださったのは、当ゼミナールで毎年経済のお話を賜っております、株式会社イムラ封筒監査役で、経済アナリストの北川宏廸氏でした。
今回は、日本経済の現状を、外需と内需の関係から考察し、そこから見えてくる方向性についてお話くださいました。

reikai090615_02.JPG reikai090615_03.JPG
北川宏廸氏(左)/北川氏と山本代表

* * * * *
今回の北川氏の発表は、分かりやすく詳しいレジュメをご用意くださいましたので、詳細はこのレジュメをご覧くださいますようお願いします。
>>>北川宏廸氏のレジュメのダウンロード
* * * * *

内閣府が5月20日に発表した、09年1~3月期のGDP速報値は、前期比4%減、年率換算で15.2%減という、戦後最悪の落ち込みを記録しました。
この状況下、日本経済をどのように立て直していけばよいのでしょうか。
この問題について北川氏は、数値データから読み取れる分析によって、一つの明確な方向性をわれわれに示してくださいました。

実質GDP(内需/外需)の内訳

まず、【図表1】をご覧ください。


(クリックで拡大できます)

これは、2001年以降の各期(年、四半期)の実質GDP(内需・外需)の内訳を、実質季節調整後の年換算の実数値でグラフにしたものです。
2008年以降、グラフが急に短くなっていることは一目瞭然ですが、それがグラフの〔赤い部分〕の変動によるものであることも、よくわかります。
この〔赤い部分〕が「外需」です。日本の現在の不況は、外需の落ち込みによるものであることが理解できます。このことは、山本紀久雄代表が「YAMAMOTOレター」等で指摘しておりますこととも一致します。

外需の伸びは「小泉構造改革」から

また、時間軸を遡り、この〔赤い部分〕が伸びていく時期に注目しますと、2002年以降ぐいぐいと伸びていることも見てとれます。この時期に何があったのでしょうか。
この時期に政権を握っていたのは、小泉内閣です。
実は、「小泉構造改革」が、外需の急速な伸びを生んだのです。

「小泉構造改革」とは何であったのか

小泉構造改革には二つの柱がありました。一つは、銀行の不良債権処理であり、もう一つが、財政構造改革でした。
銀行の不良債権処理は、「金融再生プログラム(竹中プラン)」によって2005年3月末までに完全なかたちで終息しました。この不良債権処理が、今回のアメリカの金融危機対応の貴重なお手本になっているそうです。

もう一つの財政構造改革は、財政資金の「入口改革」と「出口改革」、それを繋ぐ「パイプの改革」から成っていました。
「入口改革」は、ご案内の通り、《郵政民営化》でした。
「出口改革」は、(1)道路公団改革、(2)政府系金融機関改革、(3)年金制度改革、(4)医療制度改革の4つ。
そして、「パイプの改革」が、(1)公務員制度改革、(2)特別会計改革、(3)国と地方の三位一体改革でした。
また、小泉改革を金融面から支えたのが、日銀の「ゼロ金利政策」と「量的緩和政策」です。

小泉改革で注意すべき点

第一点は、国と地方の財政資金総残高1,150兆円(04年3月末)の資金繰りが、郵貯資金・簡保資金のストック残高320兆円によって、国民の目に触れないところで「官僚たちの裁量」によってつけられてきた、ということ。  
実は、財政資金のファイナンスは、日銀の一番大切な仕事なのです。郵政民営化により、運転資金である郵貯・簡保資金の320兆円が凍結され、郵政民営化以降、日銀がこの1,150兆円の財政資金のファイナンスを怠ってきたために、民間部門はずっと運転資金枯渇の状態におかれてきた、のです。

第二点は、日銀の《ゼロ金利・量的緩和政策》が日本経済に「円安バブル」を引き起こす原因となった可能性があるということです。
この円安バブルが、実は、2002年以降の外需依存型の経済による景気回復を支え続けてきたのです。日銀にこの《光と影》の認識があったでしょうか。

世界経済の「巨大なバブルの循環」

2002年以降、世界経済では「巨大なバブルの循環」が起きていたのです。
アメリカの「個人消費」は、長い間GDPの60%程度でしたが、2002年頃から70%程度に上昇し、家計貯蓄率がほぼゼロの水準まで低下しました。これがサブプライムローンなどの高利の証券化商品への運用(投機)と密接に絡んでいたことは周知の通りです。
留意すべきことは、アメリカの住宅バブルはアメリカだけで引き起こせたものではないということです。アメリカの消費支出の拡大は、アメリカへの輸出国(日本や中国など)の輸出を増大させ、日本や中国も、アメリカのサブプライムローン・バブルの恩恵を受けており、実は、《共犯者》だった、のです。

日本の「経済構造」はどう変化したか

この間、日本の経済構造は大きく変化した、と北川氏は述べます。
それを端的にあらわしているのが、【図表1】のグラフの〔青い部分〕です。
実質輸入比率が、原油価格高騰の中で、2004年以降、10~12%という極めて安定したレベルで推移していることです。
これは、資源の乏しいなかで、戦後一貫して内需中心の自立した「国民経済」の実現をめざした日本経済の「足かせ」となってきた、いわゆる《国際収支の天井》――─すなわち「資源の輸入制約」――─から、完全に脱却したことを意味する、と北川氏は解説します。
加えて、もう一つ、大きな変化が起きています。それは、《中国の工業化による日本の輸出構造の変化》です。
日本からの中国輸出は、最終消費財ではなく、中間財(素材・部品)や資本財(機械等の生産財)で、中国はこれらを用いて最終消費財(製品)を生産し、これを中国は、中国の内需向けではなくて、アメリカや日本に輸出するという構造になっています。
つまり、日本は製品を製造して輸出するのではなく、製品をつくるための素材や機械設備などを輸出し、それを中国が製品に組み立て・加工して、日本はその加工した製品を輸入するという輸出入の構造に変化しているのです。

日本経済の「構造転換」という課題

このことは、戦後の日本が築き上げてきた「輸出立国型」産業構造からの構造転換という課題をわが国に突きつけている、と北川氏は指摘します。
なぜなら、日本経済は「輸出で外貨を稼ぐ」必要がなくなったからだということなのです。
日本の貿易収支は、2008年10~12月から赤字に転じました。しかし、経常収支を見ますと、2008年は16.4兆円の黒字で、このうち、貿易収支が1.9兆円の黒字、所得収支が15.8兆円の黒字でした。圧倒的に所得収支の比重が大きくなっていることが分かります。対外純資産は225兆円(08年3月末)もある。
北川氏は、こう述べます。
「要するに、日本は『成熟した債権国』になったのだ。成熟した債権国となった国がとるべき経済政策は、『外貨を稼ぐ』ことではなくて、対外資産が生み出す所得で輸入代金を賄う方向に経済を誘導していくことなのだ。」と。
北川氏の結論を一言でいうと、「この今こそ、内需志向型の産業構造への構造転換を急ぐ必要がある。内需拡大とは、国内の経済構造改革そのものなのだ。」ということです。
以上が、今回北川氏からの提言の骨子です。

**********

なお、内需志向型の産業構造を推し進めるための具体的な処方箋については、添付しました北川氏のレジュメをご覧ください。

われわれが認識しなければならないことは、日本経済は、いま百年に一度の経済構造の転換を迫られているということ、そして、いま行わなければならないことは、小泉経済構造改革が遣り残した、公的部門の経済構造改革―――すなわち、「財政構造改革」―――を強力に進めること、のようです。
それが日本経済を「内需志向型の産業構造」へと構造転換させることにつながり、これを強力、かつ早急に推し進めるのは、これはもう、経済政策の問題ではなくて、わが国の政治システム、行政システムの問題だ、ということを学んだのが、今回の例会でした。
 
reikai090615_04.JPG reikai090615_05.JPG

北川様、分かりやすい経済解説を賜り、ありがとうございました。
また、質疑応答で活発な意見交換をくださった参加者の皆様にも深く感謝申し上げます。
質疑応答では、固有名詞を挙げて実名で、日本経済の問題に具体的に生々しく言及してくださいました。
記録への掲載は控えさせていただきますが、なるほどと得心の行くことがあり、大変勉強になりました。あらためましてお礼申し上げます。

(事務局 田中達也・記)

投稿者 lefthand : 2009年06月24日 20:26

コメント