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2009年01月21日

2009年1月20日 オバマ米大統領への打つ手

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2009年1月20日 オバマ米大統領への打つ手

オバマ米大統領就任

バラク・オバマ第44代米大統領が、20日、約200万人の大観衆が見守るなか、宣誓を行い就任し、次の演説をしました。

「われわれは危機のさなかにある。米国は、暴力と憎悪の根深いネットワークに対する戦争を遂行中だ。また、一部の者の欲望と無責任さの結果であると同時に、われわれ全体が厳しい決断を下し、国家を新たな時代に備えることに失敗したことにより、経済は激しく弱化している。さらには、米国も衰退は不可避であり、次の世代は視点を下げねばならないという、自信喪失もみられる。 
私は本日、こういった挑戦は現実であり、簡単に短期間で解決できるものではないと言いたい。しかし、アメリカよ、これを知って欲しい。これらの問題に応えられるのだ」

オバマ大統領に期待する声

英BBC放送と読売新聞社が実施した「オバマ新政権で米国の対外関係はどうなるか」の、1万7,356人調査をご紹介します。

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「『良くなる』と見ている人は、すべての国で多数を占めた。オバマ氏が、ブッシュ政権時代の『一国主義』から『多国間協調』への転換を掲げていることが、関係改善への期待感につながっているようだ。『良くなる』との答えは日本では48%で17か国中2番目に低く、『変わらない』37%は最高だった。『良くなる』はドイツ78%、フランス76%など、ブッシュ政権下でのイラク戦争への対応で、対米関係がぎくしゃくした欧州諸国で高かった」 (読売新聞2009.1.20)

各国の回答結果は困窮度を示す

欧州三国が調査結果の上位を占めました。これをどう理解するか。どうもこの結果は、米国発金融危機の影響で困窮度が強い国、つまり、米国より困っている国が、より多くオバマ新政権に期待しているのではないかと推測いたします。
それを証明するのが、1月19日に発表された英国大手銀行「ロイアル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)」の損失です。2008年通期の最終赤字が280億ポンド(約3兆7,000億円)で過去最大となりました。
常識的には、米ウォール街が最も影響を受けたと考えますが、実は違うのです。ニューヨークの世界最大級銀行シティグループは、2008年通期で187億ドル(約1兆7,000億円)の赤字ですから、RBSはシティを2兆円も上回る損失です。多分、銀行では世界一の赤字でしょう。
これを受け、英国のブラウン首相が「米サブプライム関連商品の約半分は欧州の金融機関が抱える」と発言しましたが、この背景には「米景気の悪化が欧州銀行の不良債権の増加に直結する」という意味が入っています。
つまり、自国では解決しようにもできない他国の景気悪化により、自国の銀行が損失を増やし、金融が傷つく結果、国家が銀行に公的資金を投入せざるを得なくなり、それが国債の増発につながっていくのですから大変で、この困窮度の強い国順に、上図が並んでいると理解しています。

どうして米国発なのに欧州の困窮度が高いのか

その最大理由は、金融危機の発端となった「新種の金融商品」が、欧州金融業界が開発したものではない、つまり、米国から「新種の金融商品」を輸入し、それを国内の投資家・金融機関に販売したことにあります。
という意味は、米国でサブプライムローンが問題だという兆しが表れた時に、素早い初動動作をとれず、米国での換金処分の動きにも遅れ、気づいて慌てて換金処分をしようとした時には、すでに広く「破綻リスク」が広がっていたので、誰も引き受け手はいなく、結果として所有したままとなっているのです。
ですから、この「新種の金融商品」が時間の経過とともに、評価がさらに下がる場合、英国銀行RBSがその事例ですが、評価損を計上し損失となり、資本不足になりますから、国家からの金融支援が必要となってしまうのです。
また、仮に「新種の金融商品」を満期まで保有したとしても、元本保証は難しい上に、価値がゼロという事態も予測されるという、厳しい困窮実態になっているのです。

アメリカ人はあまり感じていない

このことを示しているのは、英BBC放送と読売新聞社調査で「金融危機にオバマ新大統領がどう対応すべきか」を聞いたところ、17か国すべてで「最優先で取り組むべきだ」との意見が大多数でしたが、国別では中国が最高の93%に達し、日本は77%であるのに対し、米国は75%という回答結果なのです。
つまり、米国は金融危機の発端国ではあるが、他国よりは問題意識が低いということで、これは一見奇妙な現象と思えますが、現実の国別困窮度から考えれば頷けるのです。

日本のバブルとの違い

次に、もうひとつ考えてみたいことがあります。それは日本のバブルとの違いです。今回の米国サブプライムローンから発した金融危機は、あっという間に世界中に同時経済停滞という事態を招きました。
一方、日本のバブルは、その絶頂期でも世界に波及しませんでした。同じく不動産から発したバブルでありながら、米国は世界中へ、日本は国内だけにとどまりました。
この理由としてあげられるのは、日本は不動産という実物バブルだったのに対し、米国は住宅という不動産ではあるものの、それを証券化した、つまり、お金化したことです。
実物の不動産は国から国へ移動できません。現在地を変化させられません。しかし、その不動産の価値を証券化し、それを細分化し、株式のように売りやすくしてしまえば、それは実物のモノではあるが、新型の流通する証券・お金として回流させられるのです。

お金はモノより「はやい」

これにウォール街が考えつきました。実物の不動産を流通化させるためには証券化することだ、そうすればお金の流通と同じになると気づき、そこに金融工学とIT技術を加えて仕組みを構築したのです。つまり、証券化というお金にすれば、実物の移動とは比較にならないスピードで動く、お金の「はやさ」を活用したのです。
また、そのお金も米国人のお金だけではなく、外国からお金を取り込むというシステムをつくり、その米国に入ってきたお金をさらに他国に投資するという仕組みにしたこと、これが米国金融帝国化といわれる所以です。
この仕組みづくりには、お金の動きはモノとは比較にならない「はやさ」がある、ということをつかむことが重要です。このお金の「はやさ」を分からないと、今回の金融危機の背景はなかなか理解できないと思います。なお、日本人はモノづくりに優れている反面、お金の「はやさ」ということへの理解が一般的に薄いのが特徴です。

オバマ新大統領打つ手はお金の「はやさ」

オバマ新大統領が打つであろう、金融危機経済問題対策は大規模な公共事業です。この投資配分が適切であればあるほど、お金という特徴の「はやさ」が効いてくるはずで、その結果、米国経済の意外に「はやい」立ち直りを期待したい気持ちでいっぱいです。以上。

(2月のプログラム)

2月13日(金)16時   渋谷山本時流塾(会場)東邦地形社ビル会議室
2月13日(金)14時 温泉フォーラム研究会(会場)上野・東京文化会館
2月16日(月)18時経営ゼミナール例会(会場)皇居和田蔵門前銀行会館
2月18日(水)18時30分 山岡鉄舟研究会(会場)上野・東京文化会館

投稿者 lefthand : 2009年01月21日 20:29

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