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2008年06月20日

2008年6月20日 ビル・エモット氏の進言

環境×文化×経済 山本紀久雄
2008年6月20日 ビル・エモット氏の進言

上海現代美術館

前回レターでお伝えしました、イタリア・フィレンツェのフェラガモが、ブランド回顧展を行った上海現代美術館、そこへ6月初旬に訪れてみると、今度は「四川大地震写真展」が開催されていました。被害状況の生々しい写真が大型サイズで展示され、大災害ということがよく分かると同時に、救済・復旧活動の写真も数多くあって、外国からの救援部隊の活躍も掲示されていましたが、写真展示国はロシアと日本だけです。

多くの国から支援を受けているはずなのに、二国の写真しか展示されず、そこに日本がはいっていること、それは「日本の援助に感謝する」という発言を、北京でも上海でも一般人から多く受けましたが、それを証明する上海現代美術館であり、今の中国の日本に対する感情を表していると思いました。
その反面、韓国に対しては「問題だ」という発言が多く聞かれました。韓国も空軍機で救援物資を送るなど積極的な支援活動をしているのに、中国は韓国に対して反発感情を持っているのです。

ソウル

その韓国ソウルに入ったのは、ちょうど李明博大統領が就任して100日目で、ソウルは反政府デモで大変な騒ぎでした。大統領がソウル市長時代に環境再開発に成功し、ソウルの気温を二度下げたといわれる清渓川の前広場で、「MB反対」の幟が翻り、MBとは李明博を意味する頭文字で、加えて「民心・天心」の旗、つまり、民の気持ちを取り入れて政治を行えという意味ですが、米牛肉輸入問題だけでなく、国宝一号指定の南山門焼失で、ソウル市長時代に対処した警備手薄を追求されていることや、物価上昇・公企業民営化・経済低迷など多様な問題が輻輳し重なり大騒動になっているのですが、この発端はオリンピック聖火リレー問題だろうと推察します。

聖火リレー

北京オリンピック聖火リレーは、チベット問題によって世界中で騒乱を巻き起こして、4月26日に長野に入りましたが、ここでは若干のトラブルあったものの無難に終え、その翌日はソウルに移りました。
ソウルでは大問題化しました。チベット問題提起の韓国・欧米人に対して、韓国にいる中国人留学生が石やペットボトルなどを投げつけ、怪我人が発生、中国人が逮捕されるという騒ぎとなり、外交問題化していたのです。

中韓関係

韓国の李明博大統領が就任後初の中国訪問で、5月27日に北京に入ったその日に、中国外務省報道局副局長が「米韓軍事同盟は歴史の産物。冷戦時代の軍事同盟では安全保障問題を解決できない」と外交政策を批判しました。
これに対して韓国側では「胡金濤主席との初の首脳会談直前に相手国の外交政策を批判するのは礼を欠く」と非難応酬し、さらに、中国外務省のホームページに、訪問した27日まで韓国の国家元首として、前大統領を掲載していたことも判明し、両国の関係は微妙な関係に陥っているのです。

善光寺阿弥陀如来の御利益

このような中国と韓国の関係が、北京・上海における中国人の態度にも反映し、上海現代美術館の「四川大地震写真展」に、韓国救援部隊の写真がなく、日本が展示されるという伏線になったと推測しますが、その起因を辿っていけば、ソウルの聖火リレーが警備体制のまずさから、中韓両国に外交問題を発生させたことが発端と思います。
一方、長野での聖火リレー、警備は大変でしたがトラブルは最小限に抑え、その要因としては、善光寺境内からの出発を取りやめたことが影響したと思います。
仮に善光寺境内から出発し、国宝の本堂に重大な瑕疵が生じたならば、問題が発生したはずで、その危険を避け、警備体制がとりやすい地区からの出発へ、善光寺の意思で変更させたこと、これがトラブルを抑えた最大要因であり、さすがは善光寺阿弥陀如来の御利益と思っていますが、いかがでしょうか。

過去経験

しかし、今回は中韓関係の微妙さもあり、四川大地震救援活動で「日本の援助に感謝する」という見解が強く出され、胡金濤主席の日本訪問も問題なく終わりましたが、過去の経緯をたどれば、中韓両国とも「国内問題が発生すると、国民の眼をそらすため、日本の戦争責任へ振ってくる」ことが多々ありました。
 そのことが日本の最大の弱みだと主張するのは、イギリスの元エコノミスト編集長であるビル・エモット氏です。この度出版した「アジア三国志」(日本経済新聞社出版社)で次のように述べています。

「日本の最大の弱みは歴史と、歴史を過去のものにするのに何度となく失敗していることだ。教科書問題、靖国参拝、戦時の強制労働や慰安婦への補償、第731部隊や南京事件のような残虐行為のどれについても、中国と韓国は歴史的事実に関する議論や争いに乗じて、道義的に優位に立ち、日本を守勢にまわらせることができる。中韓は、それぞれの世論を煽ったり、世論に反応して、国内政治にこうした問題を利用している」

靖国神社参拝

 6月15日の父の日は、山岡鉄舟研究会イベントで靖国神社参拝と史跡探訪を開催しました。あまり暑くない天候に恵まれ40名余の方々が、靖国神社の奥深くで正式参拝をし、その後遊就館で同館の大山課長の武士道の講演を受け、遊就館内をご案内していただきました。参加者の中には、身内が戦争でお亡くなりなった方も多く、大きな感動をもって見学されましたが、案内の最後は「大東亜戦争がアジア各国の独立に貢献した」というパネルと資料の前でした。大山課長は「ここはマスコミには敢えて説明しないところです」という前提でのご説明でしたが、納得するところが多々ありました。

というのも昨年インドを訪れたとき、2006年3月にコルカタ(カルカッタ)のチャンドラ・ボース記念館から「インドの独立に対する貢献」の感謝状、宛名は「内閣総理大臣東条英機殿」で孫の東条由布子さんに贈られた事実を確認していたからです。

だがしかし、このような日本の主張・見解については、中韓両国の立場からは認めがたく、日本の政治家発言が過去に両国と何度も火種を起していますので、大山課長はマスコミを避けているのですが、このところを正面から突破させないと、いつまでたっても中韓両国から追及される結果が続くと思います。

ビル・エモット氏の進言

この永遠に続きそうな追求への解決策を、ビル・エモット氏は次のように進言します。
「中国と韓国にとっては、歴史問題をそのまま残しておくほうが政治的に有利だ。歴史的な恨みを飯のタネにしている低レベルの組織や市民団体にも、往々にしてそれが当てはまる。だが、日本政府がやる必要のある行動そのものは、そう多くない。
 もっとも賢明な措置は、歴史的事実の正誤や改悛の念という全体をひっくるめた抽象的な問題を、特定の出来事や苦情の責任、謝罪、悔恨と切り離す作業だろう。
 別のいいかたをすれば、東京裁判のパール判事が意見書で述べた反対意見を銘記するということだ。パール判事は、旧日本軍の残虐行為については日本は有罪だが、戦争を国家政策の道具に使ったという全体の告発については、偽善的であり、法的には不合理であるとした」(アジア三国志)

国家戦略

 つまり、ビル・エモット氏は「日本が戦争せざるをえなかったことは無罪」ということを国家戦略・目的として成し遂げる必要があり、その手段として「旧日本軍の一般人への残虐暴力行為については、改めて首相か皇族が中韓両国の主要地に出向き謝罪し補償する行動」をとるようにとの進言です。なるほどと思います。戦争責任という抽象的問題を、二つに区別し、それを戦略と戦術に分ける思考方法です。
この検討が、中韓両国との未来関係改善への布石となるのではないでしょうか。以上。

投稿者 Master : 2008年06月20日 10:30

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