« 2008年6月例会のご案内 | メイン | 6月例会の感想 »

2008年06月05日

2008年6月5日 中国の消費意欲が日本を再認識させる

環境×文化×経済 山本紀久雄
2008年6月5日 中国の消費意欲が日本を再認識させる

北京オリンピック

北京の街中を歩いて妙なことに気づきました。どこにも8月8日開催のオリンピックの看板、ポスター、垂れ幕、横断幕、スローガンがありません。もう開幕まで二ヶ月に迫っています。メインスタジアムは完成し、予行競技も開催されましたので、北京市内に「北京オリンピックを成功させよう」というような表現があってもよいし、当然あるだろうと予想していましたが、全くありません。

勿論、テレビではオリンピック開催準備状況の報道をしていますが、PR掲示がないことを地元の北京人に聞いても「それは質問されるまで気がつかなかった」という実態です。ホテルのバーで隣り合った韓国人に聞いてみると、それは「四川大地震のせいで抑えているのだ」とすぐに語ります。そうかと思いますが本当かどうか分かりません。不思議です。

北京大学図書館

この雰囲気は北京大学でも感じました。北京大学図書館に行くため校内に入りましたが、学生が歩いているだけで、特別の催事・お祭りを迎えるというムードはありません。

図書館は北京大学の学生が利用するか、外国人の見学しか出来ません。一般人は入れませんので、中は大学生だけです。感心したのは学生が熱心に勉強していることです。閲覧室の椅子はほぼ埋まっています。その机で静かに本を読み、写し、書きしています。真面目だというのが第一印象です。

図書検索データで探し、目的の本を見つけ、それを閲覧請求するとすぐに書庫から出してくれ、受け取り、本を開いてビックリしました。全く違和感がないのです。何となく理解できるのです。理由は漢字です。日本語と同じ漢字で書かれているので、漢文を読むのと同じように読めば、ある程度分かります。つまり、今の中国の漢字ではないのです。

1912年に成立した中華民国37年版本ですから、1948年の印刷ですので、昔の字体なのです。次にコピーを依頼すると、目の前ですぐにしてくれます。これも意外です。顔つきは不親切・仏頂面の係員が、親切サービスをしてくれるのに驚きましたが、図書館内にもオリンピックポスターらしきものはありません。

オリンピック長者

しかし、一歩大学を出ると、そこは猛烈な渋滞とビル建設ラッシュが続いていて、いたるところ粉塵が撒き散って、もともと悪い空気がさらに悪化しています。

メインスタジアムの「鳥の巣」周辺は、粉塵濃度が五段階で上から二番目の「4」、繁華街の建国門外は最悪の「5」で、「数人がたばこを吸っている狭い部屋で生活するようなもの」というレベルです。肺にも喉にも悪いのですが、これがオリンピックが近いことを示している一番の状況と感じました。

もう一つ感じたのは、「鳥の巣」からさほど遠くない「天通苑北」という新興住宅地に入ったときでした。真新しいマンションが広大な土地に立ち並んでいます。ここはオリンピック開催に伴う再開発による立ち退きで、政府から多額の補償金を得た「オリンピック長者」が多く住んでいるところです。

人民大会堂の裏から移り住んだ夫婦、古い家に対して、平均年収の60年分に当たる
130万元(約2100万円)が入り、この「天通苑北」で3LDKを30万元で購入、マイカーや高級家具、息子に別のマンションを買っても、まだまだ残ってお金持ちになったという事例など、枚挙に事欠きません。

影もある

だが、オリンピックでお金持ちになった人ばかりではなく、開発されない地区の人々は、昔の貧しい中国の実態のままの生活をしています。

その事例は北京市北東部の「黒橋村」です。金持ちが住む「天通苑北」から車で30分、そこは探すにも苦労するほどの、幹線から奥まった袋小路の一画で、舗装されていない土埃の舞う細い道路がくねくねとつながり、両側は小さな狭い汚い店が立ち並び、殆ど外部から人が訪れないところです。歩いていて危険は感じませんが、写真を撮ることはやめておこうという雰囲気を感じさせる、オリンピックと経済成長から取り残された「貧困村」です。

すべてのことには、必ず両面があるという事実を証明している事例と思います。

家の中と英語力

しかしながら、数軒訪問した二億人に育った中間所得層のアパートメント、そこにはいずれの家も大型の薄型テレビがリビングにあり、寝室にも壁掛けテレビがあって、オリンピック開催にタイミングを合わせて購入したといい、応援するスポーツの入場券も買ったと発言するように、一般市民はオリンピックムードに入っています。

ただし、訪れる側から見た心配事は英語力です。北京空港からタクシーに乗って、ローマ字で書いたホテル名メモを見せると「分からない」という仕草、漢字で書くと走り出します。日本人は漢字が書けるから何とかなりますが、他国の人たちは相当困ると思います。

だが、英語が通じないのとは関係なく、街中には欧米ビジネスマンが溢れています。その理由は、本質的に中国に対する期待を強く持っているからです。

フェラガモの上海記念式典

欧米人を集めている背景を一言で語れば「消費意欲」です。3月28日に創立80周年を迎えたイタリアの老舗ブランド・フェラガモは、記念式典を本店のあるフィレンツェではなく上海で開催し、中国有名スターを招いたオープニング・セレモニーは全国ネットで生中継され話題を呼びました。

上海で開催した理由は「売り上げの47%がアジアの消費者によるもの。なかでも中国は全体の売り上げの10%も占めているから」と最高経営責任者のミケーレ・ノルサが語り、今年だけでも中国に新たに8つの店舗をオープンする予定だと言い、上海現代美術館でブランドの回顧展を大々的に行いました。

今後の売上増加策の切り札としているのです。

中国人の日本人気場所ベストスリー

その「消費意欲」の中国人が日本にも溢れています。

中国人の人気場所ベストスリーは秋葉原、銀座、大阪心斎橋筋。どこでも群をなしているのですぐに分かります。ビザの関係で個人旅行は難しいので団体となり、その層は金持か優良国営企業の社内旅行です。

まだ、二億人といわれている中間所得層の外国旅行は少ないのが実態で、秋葉原でデジカメ10個買った、銀座のワインセラーで100万円のロマネ・コンティを買ったというのは金持ちの中国人です。また、心斎橋筋は異国情緒があって、物が安く、タコヤキが美味いと、訪日必見コースとなっていて、先週の大阪出張時に、心斎橋筋を旗持った添乗員の後をぞろぞろ歩く中国人を何組も見ましたから事実と思います。

金持ち中国人にとって日本は買い物天国です。

日本の品質

先日、ある企業へ訪問し幹部とお話しする機会がありました。幹部は昨日ニューヨークから戻ったばかりだと話しながら、実はニューヨークの得意先に召集をかけられ、急遽行ってきたのだと話してくれます。召集されたのは納入した部品の不良率が高すぎるので、その対策会のためで、集まったのは世界の部品メーカーです。

会議で配られた不良品のリスト、それを見てこの幹部はビックリしたのです。自社の不良品は一個もない。全部他社のもの。つまり、外国メーカーの部品だったからです。

では、どうして召集をかけられたのか。それは不良品が一個もない企業があるという事実、それを他の外国メーカーに示したいから、わざわざ呼ばれたのです。

外国メーカーの前で「何か一言話せ」と要望されたということですが、日本企業の品質レベルの高さを証明する事例です。

時代の風は日本に吹いている

中国人の消費意欲に対応すべく、世界中のメーカーが中国シフトを敷き、中国で激しい販売競争が展開される結果、そこで何が発生するでしょうか。多分、品質格差競争になるでしょう。

そうなると最後に販売シェアを握るのは、品質に勝る企業、それは日本になるだろうと予測し、中国人の猛烈消費意欲が日本のレベルを再認識させると思います。 以上。

投稿者 Master : 2008年06月05日 08:57

コメント