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2008年03月05日

2008年3月5日 メタボリック症候群

環境×文化×経済 山本紀久雄

2008年3月5日 メタボリック症候群


ロンドンのJALラウンジにて

ロンドン・ヒースロー空港のJALラウンジで、若い美人女性が乗客にインタビューしています。順番がこちらに来ました。「ちょっとお時間をいただけませんか」。「何でしょう」。「エアラインの満足度調査をしております。ご協力お願いします」。


 世界中の空港で一斉に調査し、その結果を航空関連雑誌に発表しており、ここ数年のトップエアラインはシンガポール航空、次いでヴァージン・アトランティック航空が続き、残念ながらJALは徐々にランクを下げています、と解説してくれます。

 この結果は、JAL愛用者としては残念ですが、客観的評価として実態を受け入れないといけないと思いつつも、機内でうけるJAL客室乗務員のサービスは丁寧・上品・親切で、他国のエアラインより優れていると思っていますので、その要因は何だろうかと考えているうちに、JALと日本国全体が頭の中でオーバーラップしてきました。

 改めて以前に利用した、ヴァージン・アトランティック航空を思い起こしますと、機体は決して新しくなく、食事なども普通と感じましたが、機内に流れている活気、明るさ、リズム感が違っていたと感じます。一言でいえば「元気度」が異っています。

 これか!!と気づいて、これは、日本全体を覆っているものと通じる、と思いました。

日本の元気度

 このところ伊勢の赤福や北海道のチョコ、その他多くの偽装事件が発覚しました。再生紙も嘘だったようで、大企業も中小企業もいずれも問題だというムードです。考えてみれば、安倍政権時のタウンミーティングもやらせでしたし、昨年後半の経済状況を悪化させた住宅建築基準法改正も偽装からでした。そこに、世界共通の経済問題である、原油価格の暴騰とサブプライムローン問題が重なって、世界中で株式市場が暴落し、地球全体が先行き不透明という状態となりました。

 このような不安心理のところに、日本には人口減という長期変動要因があり、これらが重なって、何か日本全体に活気・元気度を失わせているような気がしてなりません。


会食時の話題

 先日、フランス人と結婚して里帰りした女性を囲んで、何人かで食事しました。話題はフランスと日本の比較論から、次第に日本の過去と今の比較に移っていきました。

 ジッと聞いていると、最近の若い者はけしからん、という昔から年配者が常に言う話題になって来ました。礼儀を知らない、基本的なビジネスルールを知らない、親も知らないから子どもに教えられない、最近の若者は着物の着方を知らない、琴と三味線の区別ができない、ダメダメのフルコースで、日本没落会議のような雰囲気になってきました。

 暗い話が一段落した後で、ひとつ提案をしました。比較の対象を「日本の昔と今」ではなく「日本と外国」で検討してみたらどうかと提案しました。

その事例として、アフリカ大陸で最も経済的にも、政治的に安定した国として評価されているエジプトと南アフリカ、そこへ訪問した実態をお話し、両国の現実は日本と比較できない程の問題があること、既にレターでもお伝えした状況を話しました。

 物事の判断は比較から生じます。同じ対象でも比較する基準の持ち方で、結果は異なるのです。昔の実態と、今の日本を比較する場合は、その背景にある時代状況が変化していることを考慮しなければなりません。日本は確かに昔より厳しい社会になっているでしょう。グローバル化が大きな環境変化をもたらしています。

しかし、外国から見る日本は大変な人気国です。日本がすばらしい国であるという評価があるからこそ、世界中で日本食がブームとなり、日本のマンガやアニメなどのソフト文化が受け入れられ、世界の多くの人たちは日本に行ってみたいと憧れているのです。

 いつもお伝えしていますように、世界の多くの国を訪れ、日本人だと分かると、急に態度が変わり、どの国でも大歓迎してくれるのです。これが外国から見た日本の実像です。


恐怖心

伊藤忠商事会長の丹羽宇一郎氏が次のように述べています。(日経新聞)

「『我々が恐れるべき唯一のものは、恐れることそのものだ』。1929年の大恐慌の悪夢のような光景が続く1933年。米大統領に就任したフランクリン・ルーズベルトは最初の演説で、経済の悪化に対し過剰ともいえるおびえを抱く国民にこう呼びかけ、ニューディール政策で恐慌に立ち向かった。

 今、世界に広がっている信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題に端を発した、株価急落など世界的な市場混乱についても、およそ75年前のこの言葉は生きている。経済は『人間の心理の織りなす綾』だからである。

 客観的にみれば、サブプライム問題はまだ底がみえていない。ミンチ肉のように細かく刻まれたサブプライム関連の債券が様々な金融商品に組み込まれ、どこまで広がっているか、まだ誰にもわからないからだ。相場には「もうはまだなり」という言葉があるが、金融市場の混乱は『もう終息するだろう』といっているうちはなかなか底打ちしない。

 重要なのは、日本や世界の実体経済は強く、健全なことだ。日本は住宅着工の遅れなど特殊要因を除けば、年率2%近い成長をしている。だが、人々が相場に引きずられて不安心理を高めれば、実際の経済も悪化しかねない。人間は心を病めば身体も病気になることがある。今警戒すべきは恐怖心が実体経済をむしばむ恐れだ。こんな時こそ世界のリーダーはルーズベルトのメッセージを共有して欲しい」。なるほどと思います。

 
偽装は昔から

 京都新聞で山岡鉄舟を連載している山本兼一氏が次のように述べています。 「食品の種類やら産地やらの偽装がたいへんな話題となったが、そんなことは平安時代から行われていた。むかしの説話を集めた『今昔物語集』に、こんな偽装の話がある。

 平安時代のなかごろ、京の内裏を警備する舎人たちの詰め所に、魚の切り身を売りに来る女がいた。味がいいので、みんな喜んで買っていたが、秋のある日、北野のあたりに鷹狩に出ると、その女がいるではないか。女が竹かごを持っていたので、むりに中を見てみると、四寸(約12センチ)ばかりに切った蛇が入っていた。女は蛇に塩をふって乾かし、魚だといつわって売っていたのだ―――」。(京都新聞2008.1.11)

 昔も今もいつの時代でも偽装を行う人がいるものだ、という事実を教えてくれます。


新学習指導要領案

 先日発表された「新学習指導要領案」は参考になります。

フランスから里帰りした女性との会食時の話題、ダメ日本の事例として提起された「最近の若者は着物の着方を知らない」は、中学校の「技術・家庭」で「和服の基本的な着方を扱うこともできる」として改善の方向を打ち出しています。

また、「音楽」では「和楽器の指導は3年間を通じて一種類以上の楽器の表現活動を通して、生徒が我が国や郷土の伝統音楽のよさを味わうことができるように工夫する」とし、「保健体育」では「武道は柔道、剣道、相撲のうちから一つを選択して履修できる」としています。食生活にもふれ「日常食の献立と食品の選び方、日常食の調理と地域の食文化」についても言及しています。今回の「新学習指導要領案」は、今の多くの大人が批判する今の若者の問題点、それらを改善しようとする内容となっています。

さらに、ヤクルトが実施した朝食実態、20年前に比べると朝食を「毎日必ず食べる」「楽しい」と感じる子どもの割合が増え、「家で毎日飲むもの」に牛乳を抑え「お茶」が1位になっています。いつの間にか子どもの食生活、つまり、家庭の食が変化しているのです。(日経新聞2008.2.18)


人口減

 日本が迎えている人口減の時代を恐怖心で受け止めている人が大勢います。しかし、考えてみれば、明治維新時の日本の人口は約2700万人、それが140年経った平成20年で12600万人ですから4.7倍に増加したのです。国土面積は敗戦で減った中での増加、つまり、狭い面積の中で人口だけが「膨らんだ」のです。それが昔と比べて生活し難い実態を作っている大きな要因でもあります。その修正作業に入って、その過程の中にいる、人間の身体に例えれば、お腹回りが膨らんだ、メタボリック症状を、改善させる方向に向かい出したのだ、と考えたら如何でしょうか。考え方で心理は変化します。以上。

投稿者 staff : 2008年03月05日 12:01

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