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2008年01月20日

2008年1月20日 変化の質を変える

環境×文化×経済 山本紀久雄
2008年1月20日 変化の質を変える


京王駅弁大会
1月10日から22日まで、京王デパート新宿店で「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」、略して「京王駅弁大会」が開催されています。今年で43回目、昨年の売り上げは13日間の開催で、36.6万個販売、売り上げは6億6千万円というすごさです。
開催2日目の夕方行ってみました。エレベーターで7階へ、その間満員の客は、誰も途中階で降りず、揃って会場に到着すると、そこは押し合いへし合いの駅弁売り場です。
すでに完売した駅弁、整理券を発行している駅弁、長蛇の列をつくっている駅弁、47都道府県から厳選された200アイテム、誠に壮観です。
買い求めたのは、義母の故郷、自分の故郷、旅行したとき食べたもの。列に並んで買うのも雰囲気があって楽しく、持ち帰って美味いと家族から喜ばれ、これだけ多彩な駅弁文化ともいえる存在は世界にないだろうと思いました。
その通りで、世界の列車に詳しい櫻井寛氏(フォトジャーナリスト)が、台湾、韓国、タイにあるものの、質、量、歴史からみて日本の駅弁は世界一と言明しています。

本質洞察力
司馬遼太郎氏が、勝海舟と坂本竜馬について語っています。(日本歴史を点検する)
「『アメリカを興したのは誰ですか』と、坂本は訊く。『ワシントンだよ』と勝。ワシントンといえば創業の人で、日本に翻訳すれば徳川家康だと思ったから、『ところでワシントンの子孫は今どうなっていますか』ときいた。坂本は将軍とか大名とかになっているのだと思ったのでしょう。ところが訊かれた勝は、ワシントンの子孫が、靴屋をしているのか、コックになっているのか、そんなことは知らない。実際は子孫は絶えているのですが、むろん勝は知らない。『しかし、子孫なんざ、問題じゃないんだ』と言って、アメリカの制度を説明した。坂本にとってこれほど大きな驚きはなかったでしょう。家康に相当するワシントンの子孫がどうなっているかもわからないということが。―――この場合、当時の日本人の驚きが代表しております。同時に、坂本はいっぺんに頓悟した。『ああそうか、日本もそうしなきゃいかん』と。」
司馬遼太郎氏がここで言いたかったことは、日本は海に囲まれた孤島であり、国際環境は地理的に分かり難い。だが、日本人が得意とする、いっぺんに分かる「本質洞察」法で、日本は変化しなければいけないと理解し、納得し、その変化の方向性は欧米化基準であり、そこから明治維新につなげていった、ということであると思います。

変化に対する抵抗感と日本人気の絶頂
今の日本の現状を、橘・フクシマ・咲江氏が「日本がどのような経済的、政治的な立ち位置にいたいのか自画像が見えない。疲れ果て、内向きになり、もう経済競争で遅れてもいいよ、という雰囲気もある。その一因は、変化に対する抵抗感だろう」と指摘しています。ところが、この反面、世界で日本人気は絶好調である、という事実が存在します。
12月5日レターで、元サッカー日本代表の中田英寿氏の「日本人って非常にいろんな国で受け入れられている」という発言、さらに、ドイツのカールスルーエでは、日本好きの高校生から高齢者まで幅広いドイツ人が、毎月日本食レストランで、食事しながら熱心に定例会まで開催している事実、加えて、世界のどの国でもマンガ、アニメ、すしなどで日本の存在は高まるばかりなのです。また、この人気の不思議なことは、バブル崩壊の日本経済の低迷を機として、日本のソフトパワーが世界中で認識され始めたということです。

別のプラットホーム
今の世界経済は、日米欧がアジアや中東、アフリカ諸国を付き従えて引っ張っていく、という図式は過去の幻想です。名目国内総生産GDPの年間増加額は、2007年度の
IMF推計で、BRICsが1兆2900億ドル、この中で中国は単独で6000億ドル占め、減速した米国の増加額を追い抜き、世界の経済成長の三分の二以上を、新興国と途上国が稼ぎ出している。これが現実の世界の姿です。
つまり、今までの日米欧という経済プラットホームに加えて、新しい経済規模のプラットホームができたのです。最近のキーワードで言い換えればデカップリング(非連動性)で、世界経済が米国経済の影響を受けにくく、相関関係が薄くなる現象を意味します。
中でも中国は、いろいろ所得格差の問題を指摘されていますが、中産階級は人口の2割もいて、この人数は日本の総人口を遥かに上回っている上に、2020年には4割に増えるという見込み(中国社会科学院)というのですから、日本人の常識感覚を超えます。
別に中国進出を推奨しているわけではありませんが、ちょっとデータを拾えば、このような現実が分かります。
日本企業は、人口1億ちょっと超える中で、激しい販売競争をしていますが、世界に眼を転じれば、そこには膨大な人口を持つ、新たな別のプラットホームが存在しています。

弁当は世界に通じる
櫻井寛氏が、駅弁は台湾、韓国、タイにしかないと指摘していますが、昨年6月、NYのグランド・セントラル・ターミナルから、メトロノース・レイルロード線で北へ向った列車、その際一緒だった地元の女性、まだ昼食していないからといって、駅構内ですし弁当を買ってきて食べ始めました。世界の大都市のスーパーでは、サンドイッチとすしが並んでいて、勤め人が昼食に買って食べるのは普通の風景です。 
また、サンパウロ国内線専用コンゴーニャス空港では、メインロビーが「現代」という漢字表示のすしバーだけ、そこで多くの人が箸で食べています。すしは世界の普通食になっているのです。30年前は「日本人は魚を生で食べる人種だ」と蔑視されたことを憶えていますが、いつの間にか世界の定番食になっているのです。
加えて驚いた経験は、昨年11月、ドイツのカールスルーエからパリにいくため、フランス高速鉄道TGVに乗車したところ、ボーイが赤いオシャレな包装の、三段重ねの弁当を持ってきました。中はパン、チーズ、ハム、サラダに白ワインと水。今までヨーロッパで多くの列車に乗りましたが、弁当のサービスは始めてでした。これはサービスが変わったなという印象とともに、ヨーロッパの鉄道で駅弁商売が可能ではないかとも思いました。

日本流で勝負
再び、橘・フクシマ・咲江氏の指摘に戻ります。「以前は米欧の標準に合わせて日本人が変わらなければ、と考えていた。しかし今は日本固有の付加価値をどう世界に売り、差別化していくかが重要だと思っている。定時に到着する電車や宅配便。旅館のおもてなしなどのきめ細かなサービス。世界をリードする環境技術。ビジネスや経済だけでなく、政治、外交でも日本ならではの価値を探し出すことが大事だ」。なるほどと思います。

変化の質が変わっている
どうも変化に対する質を、検討しなければいけない時に来ているように感じます。司馬遼太郎氏が、勝海舟と坂本竜馬について語っている幕末時は、欧米基準に対して追いつく必要から、欧米のシステムを取り入れなければならない、という変化でした。
だが、今の実態は、日本固有の文化価値が、欧米に受け入れられ、歓迎されているという事実実態なのです。ということは、今までは欧米基準に合わせて、日本人が変わらなければならない、という考えでしたが、今は日本が持っている文化を世界に普及させる、売り込む、という変化が必要とされてきているように思います。
12月の経営ゼミナールを開催した山形県の銀山温泉・藤屋旅館、ここは年間客数の4分の一が外国人でした。それも欧米・アジア・アフリカ、世界中から来ているのです。これは伊豆の下賀茂温泉伊古奈も同じで、日本の旅館のきめ細かなサービスを、外国人が認めた結果なのです。加えて、環境問題が世界の最大課題となっているのですから、日本の持つ環境技術など、その他日本固有のもの、いくらでも売り込む価値があると思います。
そのひとつの提案事例として、京王駅弁大会の会場でみる多彩な駅弁、日本国内でそれぞれ努力し、厳しい競争を展開していますが、この努力を別のプラットホームに向けたら、長期的に大きな成果を得ることができるように思います。
つまり、世界に日本固有の付加価値を伝えるために、何をするかということへの変化。これが今求められていると思います。日本から日本を見るのでなく、世界から日本を見て、日本に存在する素晴らしい文化を伝えること、それが日本の成長条件と思います。以上。

投稿者 staff : 2008年01月20日 11:07

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