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2007年09月21日

2007年9月20日 自然の理

環境×文化×経済 山本紀久雄

2007年9月20日 自然の理

サブプライムローン問題

今回のサブプライムローン問題、時間の経過と共に、問題点の解説がマスコミで報道されてきました。まだ片付いていない途中ですが、少し概要を整理してみたいと思います。

米国の住宅ローンには、優良顧客向け融資(プライムローン)と、低所得者やクレジットで支払いが滞ったことのある人達への融資(サブプライムローン)の二種類があり、この融資はいずれも「住宅価格が値上がり・転売する」することを前提にしていました。

しかし、このところ住宅価格が下落し始め、借入れ当初は低金利ですが、三年後には二倍の金利になる等のサブプライムローンの返済が滞り始めました。

サブプライムローン残高は1.3兆ドル(150兆円)で、住宅ローン市場全体では一部にすぎないのですが、これを証券化していることから問題が複雑化しました。

まず、第一にサブプライムローンを原資産として、証券化商品ABS(資産担保証券)が組成され、第二にこれを買い込んだグループがCDO(債務担保証券)という証券化商品を組成し販売し、第三にこれらをヘッジファンドが買い込み、レバレッジの効いた高利回り運用と称し世界中の投資家からお金を集めたのです。

ところが、原点のサブプライムローンが問題化し、第一から第三までのプロセスで損失が発生したのですが、このプロセスのどこでどのくらい損失が発生しているのかが明確でなく、投資家たちが疑心暗鬼になり、損失補てんのために株売りを一斉に行い、日本でも株式が暴落し、欧州では銀行から預金引き出しが相次ぐなど、金融市場が混乱しています。

今から考えてみれば、住宅価格は上下することがあるはずなのに、上昇のみを前提として証券が組成されていたということは、世の中の「自然の理」に反した証券化がシステム商品として世界中に広がったことが、問題の本質と思います。

FRB前議長グリーンスパン氏も、退任直前(2006年1月)まで事の重大さに気づいていなかった、という発言もなされ、今回のサブプライムローンはサプライズです。



安倍首相辞任

9月12日、安倍晋三首相は首相官邸で記者会見し、辞任の意向を表明しました。本人は政策実行力の不足を理由に挙げましたが、与謝野官房長官は健康問題が一因との見方を示しました。一方、日経新聞の田勢康弘コラムニストは、祖父の岸信介元首相が「あれが総理総裁の器でないことだけは私にも分かりますよ」と述べたと記事で明らかにし、首相としての資質問題を指摘する厳しい見解を示していますが、安倍首相の記憶力と読書量は抜群であり、能力的な問題よりは体力的な要因が今回の辞任につながったと考えます。

安倍首相は慶応大病院に入院したままで、病名は機能性胃腸障害ですが、この病名が示すとおり、安倍首相は胃腸が頑健ではなかったようです。かねてから食の細さなどを根拠に、健康不安説がくすぶっていたようで、体が弱い「蒲柳の質」だったと指摘されています。蒲柳とはカワヤナギの異称で、秋が来ると早くに葉が散るところから体質の弱い人のことを表現します。

安倍首相の好きな食べ物は「焼き肉、ラーメン、スイカ」、嫌いな食べ物は「生カキ」です。これは昨年就任時の新聞報道で明らかにされましたが、その際、オャと疑問を持ったことを思い出します。生カキが嫌いということは、間違いなく生カキを食べてお腹を壊したことがあるからです。

何かの機会に生カキを食べ、それが当たったのでしょうが、生カキは新鮮ですと絶対にお腹は壊しません。それは、世界各地のカキ養殖場で数多く食している経験からわかります。しかし、胃腸が弱い人が生カキをよく噛まずに食べると壊す場合が多々あります。

安倍首相の場合、カキに問題があったのか、よく噛まずに食べたのかは分かりませんが、生カキが嫌いということから推測して、この人は胃腸が弱いという印象を持ちました。首相という激務、それをこなすには体の強さが一番大事で必要です。

人間にはその職に「向き不向き」があります。適性です。いくら能力に優れていたとしても、その能力を発揮すべき体力、それも首相という国家最大の権力者としての毎日の行動を支える体力に問題があるとしたら、それは時間軸の経過と共に表象化してくるはずで、それが今回の事例に当てはまると思います。

その根拠として、先日、11年前に安倍さんを診察したことがある日本で著名な医師に出会い、直接お聞きしましたが「体が弱いので激務は無理」との診断を当時下していたというのです。これは、安倍首相自身が自らの体を知っていたという事実です。

結局、安倍首相は自分の体力と、首相の激務との較差に負けたのですが、その較差を知りつつ、首相になったということ、そこが、人間としての「自然の理」に反していたと思います。


国際柔道連盟

国際柔道連盟はリオデジャネイロで開かれた総会で、理事の改選選挙を行った結果、

山下泰裕氏がアルジェリアの人物に61対123の大差で敗れ、執行部から日本人がいないという結果になりました。しかし、新しく会長に就任したマリアス・ビゼール氏(オーストリア)が、議決権を持たない指名理事8人を新たに追加指名し、その中に上村春樹氏が選ばれ、日本人不在という事態は回避されました。

この追加措置は、新会長の「柔道の本家であり、主要なスポンサーや放映権料にかかわる日本を重視」する意向からですが、当初の山下氏排除は、前任の朴容晟会長と新会長が率いる欧州勢との対立からなされたものでした。

山下氏はご存知のように「世界のヤマシタ」ですから、その柔道界での業績は誰しも認めるところですが、そのような人物でも国際柔道連盟の権力争いに巻き込まれ、結果的に再任されなかったのです。どのような権力争いがあったのかは詳しくは分かりませんが、新会長が矢継ぎ早に打ち出した改革案を見ると従来の柔道イメージと大きく変わっています。まず、世界選手権の毎年開催と、2009年から世界を転戦する「8カ国グランプリ」と世界ランキング制度の創設で、これらから考えるとテニスやゴルフなどのメジャースポーツを目指していると思いますし、そのためにマーケティングやテレビ放映に関する専門家を招き、専門部署を新設します。つまり、完全にプロスポーツ化するのです。

日本人の気持ちの中には、加納治五郎が創設した講道館柔道「精力善用、自他共栄」の理想と技術を、広く世界に展開させてきた経緯が記憶として残っています。また、姿三四郎の小説に見られるような「柔能く剛を制す」という理念に対するあこがれが底流にあり、そこから柔道を見つめようとする気持ちが残っています。この考え方から日本の柔道試合ルールはアマチュア規定が残っているのですが、これに対して、新会長の方向性は「商業化の拡大」です。日本人には異論が残る改革ですが、よく考えてみれば、ここまで柔道が国際化したという証明であり、世界の多くの国で柔道が広まったことを示しているので、加納治五郎の目指した国際化は成功したのです。さらに、国際柔道連盟総会で選ばれるという民主的な選挙の結果ですから、受け入れるしかありません。

日本で発祥した柔道が、世界の柔道になったということを理解し、その方向で日本の柔道を変えていかなければならないということ、それは「自然の理」であると思います。


旅館革命

私が代表しております「経営ゼミナール」で講演いただいた法政大学の増田辰弘客員教授に対して、ゼミ正会員の伊豆下賀茂・名門温泉旅館「伊古奈」の女将から質問がなされ、それに対し増田教授が示唆に富んだ結果を月刊「中小企業と組合」で発表してくれました。

「旅館業は今日の図書館に似ている。図書館の側は本を揃えて貸したいが、利用客は静かに本を読む場所が欲しいのである。閲覧室がなく、本を貸すだけの図書館だと殆ど利用客が見込めないのではないか。いつの間にか図書館へのニーズが大きく変化してきた」と。

続いて、「今の旅館は①高度成長時代の、②社員旅行、忘年会の多い会社中心のライフスタイルで、③普段は貧しい粗食しか食べていない、④あまり人から頭など下げられない、⑤ホテルや海外旅行などの選択肢がない時代のビジネスモデルである」と。

日本の旅館の問題点本質を鋭くついていると思います。つまり、時代の変化という本質面からの改革がなされていない業界であるので、時代本質変化に合わせるという「自然の理」に従うしかないといっているのです。


金融証券界、国家最大の責任を負った激務としての首相職、国際化が成功した柔道界、古い体質を遺したままの温泉旅館業界、すべてに通じるセオリーは「自然の理」です。
以上。

投稿者 staff : 2007年09月21日 23:19

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