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2007年07月05日

2007年7月5日 経営感覚の前に時代感覚

環境×文化×経済 山本紀久雄

2007年7月5日 経営感覚の前に時代感覚


トヨタと日産の格差

 3月期決算の東証一部上場企業の株主総会が終わりました。特に、今回目立ったのはトヨタと日産の二大自動車企業の格差です。トヨタは役員報酬・賞与枠の40%増の株主総会決議を行ったのに対し、日産は役員賞与ゼロという結果に陥りました。明らかに両社の業績に格差が生じたことを示しています。


ニューヨーク(NY)の街中

 NYは「人種のるつぼ」と呼ばれてきました。この表現を最初に使ったのは、イギリスのユダヤ人作家イスラエル・ザングウィルが、1908年にNYのユダヤ人移民の生活を描いたドラマの題名「人種のるつぼ」(メルティング・ポット)で、そこで「アメリカは神のるつぼ、巨大な溶鉱炉である。そこではヨーロッパのすべての人種が溶け合い、再形成しあっている」と述べたことからでした。しかし、今では、この「人種のるつぼ」という概念ではなく、もっと文化的な多様性をもった「サラダボウル」であるべきだ、というのが現在の支配的な世論となっています。

 確かにそうで、共同体としての地区全体が住民の地理的、文化的ルーツを示すところが目立っています。アイルランド人地区、リトルイタリア、チャイナタウン、ロワー・イーストサイド(ユダヤ人)、アフリカに韓国、さらにプェルトリコ人は飛び地を占拠しているように、一つのNYというサラダボウルに入って、それにドレッシングを入れかき回しても、サラダは元の原型を残しているという姿なのです。

 つまり、溶け合ってはいないが、異民族の相互関係に距離を持ちつつ、同じNYというエリアで生活している。これがアメリカ・NYで生活する基本なのです。


NYのひやりとした関係

 6月はこのNY「サラダボウル」に参りました。街中を歩き、信号に立ち止まり、企業訪問し、家庭に伺い、レストランに座って異種の顔を見回しますと、お互いが一つのNYルールで暮らしてはいるものの、そこに何か「ひやりとした人間感覚」が存在することを感じます。それは情感とも、しっとり感ともいえるものが欠如しているとも言えるのですが、お互いが孤独であるという前提こそが、異種の人間共同生活ルールであるのです。さらに、孤独だから他人の邪魔にならず、だからこそどんな人間ともいっしょに暮らせるのだといった雰囲気も漂っていて、それを黙認しあった者達のみで街が構成されていることが「ひやりとした人間感覚集合体」にさせている要因であると感じます。

 勿論、東京という大都市にも大都会共通の孤独はあります。しかし、東京の孤独は、集まっている人々は日本人として民族は同じで、NYとは全く異なる条件下での孤独です。つまり、言語体系が同じであるから「お互い話せば分かる」という意味での暖かさが、まだ残っていますが、NYではこの分かり合える暖かさの温度が違い、どこか距離感のあるひやりとした人間感覚が、NYの街に漂っているのです。


へそだしルックと大統領選

 しかし、ファッションには敏感です。ここ数年、世界中で女性のへそだしルックが全盛でした。この間のミラノ・パリ・モスクワでも目に付きました。ところが、今回のNYではお腹を殆どの女性が隠しているのです。明らかにファッションの流れが変わったのです。多分、来年は世界中でへそだしルックは消えると思います。人間関係のひやり感は存在しても、ファッションには敏感なのだと改めて感心します。この速さがNYの魅力であり怖さです。いつ何がどのように変化するのか?。加えて、その変化がNYから始まるのです。ちょっとウォッチングを怠ると一瞬にして変わってしまっている、という怖さがあります。

 この変化の速さは、来年11月投票の大統領選にも言えるような気がします。今は、民主・共和両党合わせて20人近い候補が出馬する大混戦となって、両党候補者による討論会が始まっていて、現在の状況では民主党がヒラリー・クリントン、ジョン・エドワーズ、バラク・オバマの三人、共和党はジョン・マケイン、ルドルフ・ジュリアーニ、ミット・ロムニーの三人が強いと言われていますが、これから何が起こるかわからないと思います。ちょっと先の予測はつきませんので、ウォッチングを怠らないことです。


NYのタクシー

 次に、NYのタクシーですが、これは年々綺麗になって、運転手のレベルも上っているような気がします。その上、今や景気絶好調のNYですから、タクシー営業権利金も数千万円するといわれているくらいに上昇しています。

 そのタクシー業界に新しい流れが始まりました。ブルームバーグNY市長が2012年までにタクシーをすべてハイブリッド車に切り替える方針を打ち出しました。地球環境化対策で、温暖化ガスの排出量を三割削減するとの計画を発表しましたが、その一環でタクシーのハイブリット化を進めているのです。まず13,000台のタクシーのうち、来年10月までにハイブリットタクシーを1,000台まで引き上げ、その後は毎年20%ずつ増やして、2012年に全車ハイブリット車にするというものです。

 この動きにレンタカーも続きました。レンタカーの大手ハーツは、来年中にトヨタ自動車のハイブリット社プリウスを3,400台購入すると発表しました。ライバル会社のエイビスも、最近1,000台のプリウスを購入しています。

 これらの動きは、地球環境化対策や業務用ガソリン経費の大幅削減に通じるだけでなく、もっと何かの時代感覚を象徴しているような気がしてなりません。


NYの時代感覚

 さらに、ブルームバーグNY市長は、共和党を離脱し、地球環境化対策で「潮力発電」の試みも始めました。マンハッタン島の東岸を流れるイーストリバーの川底で、タービン六基を使って、世界初の試みを開始しました。この潮力発電とは、ダム建設が必要な水力発電と異なり、自然の潮流を利用するため、生態系に与える影響が少ないといわれ、民間企業によって開始し、既にスーパーと駐車場に電力を供給していて、最終的に8,000所帯への電力供給を計画している意義は大きいと感じ、時代感覚への鋭さを感じます。世界に先駆けて新しい環境対策行政を打ち続けていく。

 もしかしたら大統領選の大穴になるかもしれません。


時代感覚

 先日、ある人から相談を受けました。企業を役職交代退職し、その後いろいろ模索したが「講演家」になろうと思うがどうだろうか、という内容です。自分の方向は自らが決めることですから、積極的に取り組むようお伝えしましたが、一つだけ大事で外してはならない要件を強調しました。それは時代への感覚です。どのようなテーマで講演をするのか、それは自由なのですが、時代と合わない内容では人は聞いてくれないと思います。講演という一つの方法論、それは形として成り立ちますが、時代感覚がないものは人に受け入れられません。話がうまい下手ではなく、人がなるほどと思える内容構築、時代感覚が大事なのです。

 今回、この時代感覚の差がトヨタと日産の業績に現れたと思います。トヨタのハイブリット車が売れていることは日産も熟知しています。ところが、日産からは未だにハイブリット車が発売されていないのです。技術的な問題もあるかもしれませんが、実は損得の関係で日産は発売を見送ってきたのです。トヨタのハイブリット車は一台売るごとに、何万円もの損失が出るといわれています。その損失が発生したとしても、トヨタは地球環境化対策として必要だと、ハイブリット車を発売したのですが、日産は損してまで売ることはしない、という方針を貫きました。この経営に対する意思決定の前提は、トヨタは経営感覚の前に時代への読みを先行させ、日産は時代感覚の読みよりは経営感覚を優先させました。結果は今回の株主総会の決議内容で結果が証明されました。


ブルームバーグ市長 

 NYのブルームバーグ市長は、ハイブリットタクシー導入、潮力発電の試み、さらに、オーナーである情報企業オフィスビルを、先端ハイテク装備し、レキシントン通に完成させ、日本企業が多く見学に行っています。NYの変化が世界に影響を与えます。以上。

投稿者 staff : 2007年07月05日 21:18

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