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2007年05月05日

2007年5月5日 アイディア・創造力

環境×文化×経済 山本紀久雄
2007年5月5日 アイディア・創造力

英才教育で名人となる
(山岡静山)
 山岡鉄舟が真から心酔し、傾倒した人物は山岡静山であった。静山は、幼き頃より諸芸を学んだが、十九歳の時に省吾し、その後は槍に専念し、二十二歳で天下にその名が轟いた。静山の槍の師匠は、静山の母の父である高橋義左衛門で刀心流。稽古は猛烈だった。厳冬寒夜に荒縄で腹をしめ、氷を割って水を浴び、東の日光廟を拝して、丑の時(午前二時)ごろから、重さ十五斤(9kg)の重槍をひっさげ、突きを一千回、これを三十日続ける。平常の昼は門弟に稽古をし、夜は突きを三千回から五千回、時には黄昏から夜明けまでに三万回続けたという。元々天才的な槍の才能を持っていた静山が、義左衛門による猛稽古と、静山自身の常人では不可能な稽古に没入し、その成果として「槍の名人」としてその名を遺したのであるが、その背景には才能を引き出した高橋義左衛門が存在した。

(横綱大鵬、現在・相撲博物館館長)
 先日、第四十八代横綱大鵬親方から、現役時代の稽古について伺った。
 「マスコミなどで、私はよく『百年に一人の天才』と言われたから、努力もしないで横綱になったと思われている。いろんな人から『大鵬は、最初から大きくて強かったのでしょう』とも言われる。とんでもない。私はむしろ努力型だ。私が天才と言われるとすれば、相撲界のエリート教育を受けたからだ。このエリート教育とはしごきのことで、稽古場で気が遠くなることがしばしばだった。コーチ役の十両、滝見山さんからぶつかり稽古で土俵にたたきつけられ、これでもかこれでもかと引きずり回されたから、見ている人は『もういい加減にやめさせろ』と言った。へとへとに倒れこむと、口の中に塩を一つかみガバッと入れられる。またぶつかって気が遠くなりかけると、バケツの水や砂を口の中にかまされる。この特訓の上に一日四股五百回、鉄砲二千回のノルマがあり、それをきつくても黙々とやり通した」

 静山は高橋義左衛門、大鵬は滝見山によって鍛えられた。このような人に会え、激烈な稽古から逃げなかったこと、それが名人と称されることになった最大要因である。

日本人はバカか利巧か 
(日本人はバカか)
 イタリア・ボローニャ市で開催された、国際児童図書展と絵本原画展に行きました。原画展では今年も日本人が入賞し、日本の絵本レベルの高さを示しました。そのボローニャに住む日本人女性から、イタリア人から見た日本人の評判を聞きました。
 日本のある企業が、イタリアの機械を買ったが、壊れたのでイタリアから修理に来てもらったところ「こいつらはバカか!!」と通訳に発言したというのです。壊れた部分、ちょっと考えれば誰でも直せるところであり、イタリアからわざわざ来る必要が全くない。機械の仕組みを常識レベルで考えれば出来る。日本人は考えるということが弱点だ。日本人はマニュアルがないと何も出来ない人種なのだ。と判断しているそうです。
(日本人の利巧さ)
 この話を聞きましたので、この女性にトヨタ自動車が世界一になった要因について説明しました。それはトヨタ生産方法の「次工程はお客様」のことです。トヨタの工場で徹底的に教育を受けるのは、自分が受け持つ部品セットラインの作業結果で、次工程へ絶対迷惑をかけない、次工程でトラブルを発生させないということです。そのために次のセットライン作業を「お客様」と考えること、これが最も大事な前提だという思想教育を受けるのです。この思想がトヨタ自動車の品質を高め、世界一のメーカーに成長させた一つの要因だという説明をしますと、現地女性は始めて聞いたと言い、ビックリすると同時に、日本人の組織展開力の素晴らしさを納得し「優れたリーダーの下では日本人は利巧なのですね」と発言しました。

リーダーにも会えず、もう若くない
 山岡静山にも、横綱大鵬にも、優れて厳しい指導者がいました。その指導者が本人の天性素質を見抜いて、徹底的な稽古を課し、本人もそれに応える超人的な努力を積み重ねた結果、名人と言われる境地にたどり着いたのです。
 トヨタ自動車も同じです。トヨタ生産方式という優れた方法を考えつき、工夫し、現場に落としこんでいった結果、世界一の自動車メーカーに成長したのですが、その背景にはトヨタ生産方式を考えついた人材と、その人を見抜き、その人を育てた優れた指導者としての経営者がいたのです。
 しかし、このような事例に見られるような優れた指導者は、実際には多くいないのが現実です。また、仮に優れた指導者に運良くめぐり合え、指導を受ける機会があったとしても、自分の日常生活状態と激しく異なる厳しい指導についていけず、折角のチャンスから自ら逃げ出してしまう。これが多くの人の実際の現実と思います。
 静山と大鵬が稽古修行に入ったのは年少時でした。ですから、厳しいしごきに耐えられたのです。まだ脳がフレッシュな時に、新入社員としてトヨタに入社したから、トヨタの思想に共鳴できたのです。
 だが、もう若くない我々は、どのようにしたら「日本人はバカか!!」と、イタリア人から「けなされる」ところから脱皮できるのでしょうか。それには日常の生活に密着した中での訓練しかないと思います。

ボローニャの幼稚園
 そのヒントをイタリアの幼稚園で見つけました。
ボローニャ市の高級住宅街、サラゴッサ幼稚園の朝九時半。三歳児から五歳児25名は、先生が読んでくれる、青虫からさなぎ・蝶に成長する絵本に集中します。読み終わると、音楽を聴きながら、蝶が羽ばたく手まねして体操室に移動し、「ハーイ、青虫になりました」という先生の声に床に寝転び、「次はさなぎでーす」に体を丸め静止状態、曲が変わって「蝶になりました」で立ち上がり、自由に羽ばたく動作をし、再び元の教室に戻ります。
 机に座ると、当番の子どもが蝶のぬりえを一枚ずつ配り、マジックペンで塗りだします。輪郭線からはみ出さないように、という先生の声に全員ぬりえに集中。五歳児はさすがに早く塗り終わり、先生に見せて誉められ、自分の書類引き出しに仕舞い、三歳児は時間がかかるが、せかさず、全員塗り終わるまで待ってから、今日の給食当番をくじ引きし、当番は教室に残り、その他の子どもは先生のクイズ式反対言葉に答えた順序で並び、その順番で庭へ遊びに飛び出します。斜面の庭は樹木と芝生で覆われています。
 授業を担当するのは、世界最古のボローニャ大学卒ベテラン女性。授業の中での体験と、ぬりえを結びつけ、ストーリー性あるものにし、ただ単にぬりえを塗るだけの授業は絶対にしない。これは他の科目でも同じだと強調します。
 幼児時代にこのような教育を、継続的に受け続けると、現実世界での物事成り立ちには、必ず何かと連携するつながり関係があることを理解し、その結果として戦略方向性ある人間に育つだろうと感じます。

創造力とは組み合わせ能力
 アイディアとか創造性発揮とは、「異種なものと、異種なものの組み合わせ」から生じます。このことが分かって、体に癖づけていますと、日頃経験しているものと、新しく接した異体験を、何かのキーワードで結びつけられないかと、いつも工夫することになって行きます。
 つまり、アイディアと創造力の原点とは、日常体験と異体験の中に存在するというセオリーを体得できるのです。まさに、サラゴッサ幼稚園はこのアイディア・創造性発揮に通じる教育をしているのです。
 イタリア人から「日本人は考えるということが弱点だ」「日本人はマニュアルがないと何も出来ない人種なのだ」と言われないためにも、また、年齢的に激しいしごき稽古ができず、加えて、優れたリーダーに出会えるチャンスがない中で、自らが持っている脳力を十分に発揮し、豊かに生きるためには、サラゴッサ幼稚園の授業が実施している「物事には必ずつながり・物語性がある」ということから学んでは如何でしょうか。以上。

投稿者 Master : 2007年05月05日 11:19

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