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2007年05月21日

2007年5月20日 労働生産性・先進国最下位の背景

環境×文化×経済 山本紀久雄
2007年5月20日 労働生産性・先進国最下位の背景

コンベンション都市

毎年4月後半のイタリア・ボローニャは、1964年から続いている国際児童図書展が、コンベンションセンターで開催されます。地元新聞記事が、今年は芸術的作品を児童図書に使う傾向が強いと報道しましたが、会場では絵本原画展入賞作品も展示され、世界中から関係者が集まって、ボローニャの中心マッジョーレ広場も外国人で溢れ、ホテルは満杯で、当然、宿泊料金は倍近くに高騰しました。

これはミラノでも同じです。毎月、何らかの見本市が開かれていますが、春(3~5月)と秋(9~11月)は大規模展が多く、ホテルの確保は難しく料金もバカ高くなります。昨年秋のミラノ・プレタポルテコレクション、史上初の“太め”サイズのモデルがデビューして話題になった時も、今回のミラノ国際家具展時も、定宿ホテル料金が2倍近くとなり、それも前払いカード決済、キャンセル時返金なし、という強硬条件となります。

しかし、宿泊するところがなければ仕方なく、ホテル側の言いなりになるしかなく、同じ固定設備でありながら、コンベンション開催中はホテルの売り上げ・利益は倍近くになるのです。


お金を落とす旅行客の種類

ある場所に、世界から旅行客が集まるニーズには大別して二つあります。一つは観光であり、もうひとつは見本市とかセミナーです。どちらの方がその都市にお金が落ちるか。その事例を世界的温泉地として著名な、ドイツのバーデンバーデン観光局資料で調べてみたことがあります。

訪れた人が一日当たり使うお金は、①温泉療養と保養客は70ユ-ロ、②観光とバカンスは100~110ユ-ロ、③見本市・コンベンションは280ユ-ロでした。つまり、コンベンション収入は温泉療養の4倍、観光の2.8倍になっているのです。


地方自治体が狙うべきコンベンション

このような実態を考えれば、日本の地方都市で、コンベンションセンター建設済で、財政悪化で苦しんでいるところは、世界の事例に学ぶことが必要と思います。特に、イタリア・ボローニャのような37万人口の地方都市でありながら、国際見本市・展示会が目白押しで開催されているのは何故か、その要因を探ることが急務だと思います。

しかし、現地で既に、多くの視察団が訪れていると聞きました。だが、その視察はコンベンションセンターを訪れ、市役所から説明を受けるのが中心らしいのです。これでは真の要因はつかめないだろうと思います。


日本の労働生産性

 経済協力開発機構(OECD)2005年労働生産性、日本は先進主要七カ国の最下位で、米国の70%の水準だと、内閣府から発表されました。

 その理由として挙げられているのは

IT投資の遅れ
卸小売業は米国の五割弱
ホテル・外食産業は四割弱
家族経営の商店が多い
などで、非製造業小規模企業の労働生産性が極端に低いことが、大きく影響していると、識者が指摘しています。

労働生産性算出式は国内総生産(GDP)÷(労働投入量)であり、労働投入量とは(就業者数×労働時間)ですから、投入量に対してGDPが少ないと、生産性は低いのです。


設備生産性

 次に、設備生産性はどのようでしょうか。例えば、世界の鉄道のスピード、現時点ではTGV(仏)、ICE(独)、日本の新幹線がピタリ横一直線に並んでいるといわれています。 TGVは今年4月3日、試験走行で最高時速574.8キロを達成し、線路を車両走行する従来型の鉄道では世界最高速だと自負しました。日本では磁気浮上式リニアモーターカー実験線が時速581キロを示していますが、これに迫る記録です。

 一方、東京―大阪間には、今年の7月1日から5分短縮となる新型新幹線車両「N700系」が登場します。時間短縮のカギはカーブにおける車体を傾ける制御技術で、遠心力が緩和され、安全を確保しつつ、直線と同じ時速270キロで曲線を走れるのです。

 高速鉄道を利用する立場としては、いくらスピードが高まっても安全性が確保されなければ意味ないわけで、ある定まった走行期間内で実施された世界最高速競争、これについてはあまり関心を示さないほうがよいと思っています。つまり、本来の設備生産性ということを考えたいのです。鉄道の目的は的確に目的地に着くことですから、無理なスピード競争で安全が脅かされるのは大問題です。つまり、設備をする目的に合致する内容充実面から判断したいと思います。


鴨川シーワールド

設備と言えば話題の東京湾アクアライン、これは1997年12月に開通されましたから、今年でもう10周年になります。そのアクアラインの海ホタルPAを通って、外房の鴨川シーワールドに行ってきました。さいたま市から1時間40分、あっという間に着きます。信じられない気持ちです。

昔、新入社員時代、会社の慰安一泊旅行で行ったときを思い出しました。2日間の日程で房総の海を回ったのです。それが今や日帰りで簡単、あっという間に到着します。素晴らしい設備生産性向上です。

また、久し振りの鴨川シーワールドにも驚きました。シャチ・イルカ・アシカ・ベルーガのパフォーマンスも見事なことと、館内の水族館のレベル、これも素晴らしいのにはビックリしました。多分、世界でも遜色ない水準にあると思います。

さらに、ビックリ仰天、大笑いで楽しめたのは「笑うアシカ」です。最後にご挨拶として一頭のアシカが、台の上から笑顔でパフォーマンスするのには、満員の客席から大拍手で、しばらく鳴り止みませんでした。入場へのお礼の笑顔だと理解し、設備ときめ細かなサービスに満足しました。


きめ細かなサービス

 日本の商店・レストランの特長は、休日が少なく、営業時間が長い上、商品を丁寧に包装したり、入店時・退店時の挨拶が励行されるなど、きめ細かなサービス提供がなされていることです。

 実は、その点が労働生産性を低下させています。きめ細かなサービス提供が行われないという状況になれば、生産性は上昇する余地はあると思いますが、その場合、商店・レストランでの消費満足度は極端に減少すると思います。

 さらに、日本に来る外国人にとって、このきめ細かなサービス提供は、最大の魅力なのです。母国では決して受けられないサービス、勿論、高いお金を支払う特別なところからでは上質のサービスが受けられるのは当たり前ですが、日本では、普通の価格でありながら、諸外国の高級レベルのサービスが実施されているという実態、それを失ってはいけません。他国と差別化する最大の切り札がきめ細かなサービスなのです。

 

考え創造する力の継続化

日頃、マスコミから伝えられる内容、日本の国際競争力が中国に抜かれたとか、長寿世界一とか、世界各国との比較でいろいろ報道されます。そのデータは正しいでしょうが、中味を分析しないで鵜呑みは危険です。

データには必ず背景条件があります。それが異なっているから違いが発生しているのです。労働生産性が先進主要国で最下位、その中を分析してみれば、きめ細かなサービス提供という、日本の最大特長が背景条件として存在していたのです。

ですから、そこに、ミラノやボローニャの見本市開催時にホテル料金がアップするほどの集客力、それは「考え創造する力」を継続的に発揮させることですが、それを発揮させれば労働生産性は更に向上するはずです。5月5日レターでお伝えした、イタリア人の「日本人はバカか」と言われた指摘レベルからの脱皮、それが労働生産性向上の鍵です。以上。

投稿者 staff : 2007年05月21日 11:22

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