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2007年04月05日
2007年4月5日 イメージ先行
環境×文化×経済 山本紀久雄
2007年4月5日 イメージ先行
春のパリ
関空発のJALパリ便は学生の春旅行で満員。エコノミー席を見回すが、パソコン開いているのは自分だけ。皆、映画を見ているかゲームをしている。ビジネス客はいない。
隣の大学生男女、女性がいつも独り言のように喋り続ける。男性は無口で、女性の言うことを黙って聞いている。時折、手持ちバックの収納と出し降ろしを女性が命じ、それを黙って行っている。この女性、パリに着陸する直前、滑走路混雑のため飛行機が旋回しだすと、突然、子どもが泣き出したような声で「頭が痛い、痛い・・・」と、喉の奥からヒューと絞りだすように叫ぶ。この声を聞いたとき、どこかに幼い子どもがいたのかと探したほどの独特の泣き声。客室乗務員が何人も来て、お凸を冷やし、鼻から耳に通す薬を持ってきて対応しているうちに納まって、ドゴール空港に着陸したら、ケロッと元気になって、再び独り言のように喋り続け、男性は黙って聞き、手持ちバックを二人分下げて機内から出て行く。こういう女性は将来どうなるか。余分な心配だが・・。
大学生が多い実態はルーブル美術館でも確認できる。ルーブル美術館では世界中の観光客によって床が軋めいているが、この時期目立つのは日本人学生の一団である。一階中庭に面した椅子で休んでいると、女子学生二人が「ピラミットが反対なっているところはどこですか」と聞いてくる。集合場所が分からなくなったのだ。突然に「ピラミットが反対なっているところ」と聞かれてもこちらも分からず、いろいろ相手に質問して記憶していることを聞きだし、ようやく集合場所らしきところへの行き方を教える。
日本人はイメージ過剰反応
ところが、パリの、一昨年の秋から昨年の春は、日本人は少なかったと言う。その理由は2005年秋の移民系若者による各地での暴動と、2006年春の初期雇用契約に反対する学生や労組のデモなどが、世界中に大きく報道された結果、日本や他の一部の国の観光客が減った。
しかし、その時もパリはいつもの通り年間2600万人訪れる観光客であふれていた。日本人は過剰に反応し過ぎる。一般の人は通常の生活をしており、パリの日常は問題なかった。もっと一般のパリジャンの実態をつかむべきだと言う。(パリ観光・会議局局長2006年7月12日日経新聞)
日本人は事件に敏感だということは外国旅行関係者からよく聞く。確かに、日本人はマスコミ報道を信じ、それを頼りにし、鵜呑みにしやすい。つまり、与えられたイメージ情報に左右されやすく、それで行動が制約されていく。逆に言えばガイドブックに掲載されていないところや、一般家庭に訪問しないということを示している。
従って、その国の実態を把握し難い習慣が日本人にある。
農業祭に日本人はいない
ルーブル美術館に大勢の日本人が押し寄せている同じ日の「農業祭」、その会場では日本人を見ない。「農業祭」とは、既に100年以上開催しているパリ名物の「フランス物産展」で、農・海産物から牛豚羊馬から犬猫も出展していて、パリ市民最大の楽しみイベント。地下鉄12号線ヴェルサイユ駅上の広い会場は、家族連れが各地名産の買い物を楽しんでいる。ここへ毎年行く当方の関心事は、パリ市民が何に興味を持ち、どのような物を買うかという日常実態をつかむことだが、それに加えて、金メダル受賞の生牡蠣を食べ、金賞ワインを飲むこと。これがすべて無料。今年もブロン牡蠣を十数個食べ、シャブリ白ワインをティスティングし、価格を聞くとワンボトル124ユーロだと言う。二万円近い。美味いわけだ。
因みに、パリの「農業祭」は日本のガイドブックでは紹介されていない。
フランスの経済
フランス経済は順調で、2006年度の実質GDPは2%成長しているし、2006年2月の失業率は24年ぶりの低水準(8.4%)、主要40社の2006年12月期純利益は10%増と好調、その上欧州一の「子だくさんの国」に変身している。一般人たちの日常生活がこのような経済実態をつくりあげているのだ。だから、その国の実態をつかむにはマスコミ情報に加えて、パリジャンの素顔生活に触れることも大事。
パリジャンの生き方一例
パリジャンの生き方実例を一人ご紹介したい。
地下鉄一号線終点ヴァンセンヌの森に近い住宅街は、パリの高級住宅街だ。有名私立小学校もあって、親が子ども連れて大勢登校している。中にはランドセルを親が背負っているバカ親姿もある。
その一角のアパートメントに53歳の女性経営者を訪ねた。エレベーターで6階へ、玄関ドアを開け入ると広い居間。ガラスの机とテーブルがオシャレ。職業は不動産仲介業。事前に駅近くのオフィスに寄ってみた。なかなか立派な事務所。物件を見ると
230万ユーロの建物(34,500万円)や180万ユーロ(27,000万円)。高額物件を扱っている。
屋内にある階段を上がると屋上で、ヴァンセンヌの森とエッフェル塔が見渡せ、近くに動物園もあり、隣のアパートメント屋上はプールとなっている。主人はコンピューター会社社長。起業したのはバブル崩壊した時。不動産が値下がりし、買い手もいない時だった。だが、どんな不況でも不動産を買う人はどこかに少ないけど必ずいる。という信念で不況を突破してきた。
いつもCA va?(サヴァ・元気?)と聞かれたら、つねに元気ですと答えることにしている。この気持ちが本当に大事なことで、この生き方ですべてに対応し、うまくやってきた。どんなに環境が変わっても同じ生き方をする。変えない。生き方信条は「積極的」の一言。「積極的」にするためのコツは、自分の頭の中だ。脳細胞で決まる。
もう一つ意識しているのは、常に人生の新しい計画を持つことだ。死ぬまでこれを続けること。この考え方が、年毎にさらに積極的になっていると自分で確信し、今後も続けていく。
世界は、一般の人の行動結果の積み重ねで、その国の実績がつくられていく。それはフランス・パリでも同じだと再確認した。
前駐日韓国大使の発言
この3月に駐日韓国大使を退任し、帰国し又石大学総長になった「羅鍾一」氏が次のように述べている。(2007年4月2日日経新聞)
「駐英大使などを歴任したが、日本にはなじみがなかった。日本人に対する様々な偏見が耳に入ってきたのも事実だ。外国人嫌いとか、本音と建前を使い分けるとか・・・。社会科学者として『国民性の違い』というものはあまりないとの持論を持ちながら、実際には偏見に影響されかねなかったのだ。
ところが、暮らしてみた日本は、海の外で考えていたものと相当に差があった。日本人は行儀が良く気配りをしてくれる半面、率直でもあった。その点を趣味のテニスなどを通じ強く感じた。離日を名残惜しんでくれる仲間には、韓国人と変わらない情の深さがあった。
昨年秋、妻と一緒に長野・上高地を訪れた。印象的だったのは、日本人の自然に対する態度だ。自然を観賞して休息を取り、保護も怠らない姿勢に教養を感じた。
言葉の美しさとも相まって、日本人を嫌だと思ったことはない。高校を卒業した息子に、日本への留学を勧めた。すぐに韓国の大学に進学するより、日本に来て学ぶことが大事だと考えたからだ。人はイメージを先行させがちだが、日常に溶け込んだものは強い。日本の『日常』を体験し、固定観念に左右されない日本観を持てるようになった」
この内容、日常体験の重要性を述べている発言だと思う。
ボンジュール・パリ
日本人がパリジャンの素顔の生活に触れる「ボンジュール・パリ」を企画中だと、パリ観光・会議局局長が述べている。パリだけでなく、世界の実態を妥当につかむためには、塊だけでなく、個人としての一般人の中味に目を向け、その人の考え方を聞くこと、そのようなことの継続が、その国の「実態」を把握する近道ではないかと思う。以上。
投稿者 staff : 2007年04月05日 11:53