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2007年02月05日

2007年2月5日 日本のソフトウェアパワーの原点

環境×文化×経済 山本紀久雄
2007年2月5日 日本のソフトウェアパワーの原点

伊勢神宮

今年の初詣は伊勢神宮でした。前日に内宮近くの神宮会館に宿泊し、早朝、大浴場にて斎戒沐浴し、6時半から神宮会館職員のご案内で参拝いたしました。
伊勢神宮には安倍総理と閣僚も参拝し、多くの日本人が一度は訪れる日本の原点神社です。今までに何度かお参りいたしましたが、この度も鬱蒼とした木々と、清らかな五十鈴川の水、簡素で神々しい美しさの内宮に、早朝の寒気も気にならない感動を与えられ、日本人でよかったと、本当に思いました。

内宮とは正式名称を豊受大神宮と称し、天照大御神をお祭りしてあります。ご存知の通り20年ごとに行われる式年遷宮により、既に62度の御遷宮を行っていますから、1240年という長き伝統が続いています。式年遷宮は内宮だけでなく、外宮やいくつもある別宮、さらに装束や神宝にいたるまで、すべて20年ごとに造り替えられます。
その意味を解釈すれば、頑丈な建物を造って長もちさせるという、いわばハードウェア重視ではなく、20年ごとの式年遷宮という取り壊しと建て替えによって、古来から伝わる技能や伝統を後の世代につなげていくということ、つまり、日本のソフトウェアを保つという意味が、伊勢神宮の中に保たれていると考えます。

ベトナム・ハノイの交通状況

1月はベトナム・ハノイに参りました。夜遅くノイバイ空港に着き、翌朝、ホテル
12階の部屋から見下ろした道路は、センターライン無視のオートバイ大集団と、その間に挟まれた車とが、蟻のように黒い集団となって、蛇のようにうねり重なって交差点を曲がっていく姿、これに大変驚きました。世界で最も酷いと思い、ふと、以前、皇居を参観したときを思い出しました。皇居前広場に日本人も外国人も整然と四列に並び、皇宮警察官に引率され、桔梗門から皇居内に入って、四列が少しでも乱れると、すぐに注意されるという整列歩行が行われています。しかし、ここハノイは皇居参観と正反対で、交通ルール無視の運転と騒音が道路に溢れています。
ベトナム人は何か大きな不満足があると思います。1975年4月30日のサイゴン没落によって、ベトナム戦争に勝利し終結させ、その後の経済発展によって、食べるものも、着るものも豊かになり、都市家庭にはテレビも、水洗トイレも常備されましたが、まだ大きな何かが足りず、その鬱積をハノイの道路に爆発させているような気がしてなりません。
ハノイの人も、東京の道路のように、信号を守る整然さの方がよいと知っているはずです。だが、路上は、市民全員参加による交通ルール無視であり、その無視に率先して同調しなければ、ハノイの道路は走ることができない、という現実を見ると、そこには社会全体を覆い被せる自然感覚ソフトウェア、それが欠けているのではないかと思わざるを得ません。

ハノイのレストランサービス

 ハノイの街の樹木は、何百年も経った巨大なものが多く、それが続く並木歩道は美しく、また、市内各所に湖が多く散在し、それが景観に落ち着きを加えています。
 だが、眼を車道に転じますと、そこは騒音と排気ガスと埃の塊が人間を襲ってきて、多くの人は顔を覆ったマスクで、仮面ライダーのような服装をしています。更に、気がつくのは、女性のスカート姿が皆無ということです。一週間滞在しましたが、全てと言っても過言でないほどスラックス姿、それもジーンズが圧倒的でした。市内の交通手段はオートバイであるし、バスは50人乗りに100人は乗るといわれる厳しい交通事情、スカートでは難しいと思います。
 スカート姿は絶無ですが、マスクを取ったハノイの女性は美しくやさしく親切です。
ベトナム料理は中華料理の影響を受けていますが、さほど脂っこさはなく、激辛味の少ないマイルドな味で、生野菜やハーブを使ったものが多いので、身体によさそうな感じがして食欲が進みます。ホテルのコンシェルジェが紹介してくれるレストラン、どこでも共通しているのが、若い女性の笑顔によるサービスで快適です。
しかし、そのサービスマナーに驚きます。例えば、薬膳料理の鍋料理で、鍋が沸騰すると走ってきて、鍋の蓋をとり、鍋の中に魚や肉を入れてくれますが、問題は、そのとった鍋の蓋をどこに置くかです。テーブル上は魚や肉や野菜の大皿が並んで、蓋を置くスペースがない場合、どういう行動をとるかです。
 隣のテーブルは、フランス人とガイドらしきベトナム女性の四人、先ほどから米のご飯の上に肉や野菜を載せたものを食べていますが、まだテーブル上にはスペースがあります。そのスペースを横目で確認したかわいい笑顔の若いサービス係りは、鍋からとった蓋を隣のテーブル上に、黙って突然に置くのです。
 ギョッとして隣の4人を見ると、さすがに驚いたらしく蓋とこちらの顔を、交互に見つめ合いますが、かわいい笑顔の若いサービス係りは平然と何事もなかったように、鍋の中に入れた具をかき混ぜると、隣のテーブルから再び蓋をとり、こちらの鍋に載せます。隣のテーブル上には、蓋が今まであったことを証明するかのように、鍋蓋の湿気が残した濡れた状態が残っているのに、それを拭こうとはしません。レストランの接客応対サービスに常日頃の食事マナーが顕れました。世界に通ずる普遍性ソフトウェアと違っています。

ハノイの子どもが行きたい国

 ハノイの中心街に住む1971年生まれの女性を訪問しました。家族は夫と12歳の女の子と4歳の男の子がいます。
ハノイの中心部にある住居の多くは、表通りから入った路地に混在しています。この女性の家も、幅1.5メートルくらいの細い路地を、奥に右左に曲がり入り、最後は一軒の家の入り口で路地が終わる手前の左側、向かいの家のドアには、子猫が首を紐で縛られて羨ましげに歩く人間を眺めていて、その子猫が繋がれているドア前の家が、訪問した家です。家の入り口は、鉄製の開き格子で鍵がかかって閉じられています。その閉まっている鉄格子の片隅にあるベルを押すと、鉄格子ともう一つの木製ドアが開いて、中に招じ入れてくれました。
1階がキッチンと居間。敷地は狭いので5階建です。2階は長男の部屋、3階は両親ベッドルーム、4階は12歳の長女の部屋、5階は仏壇部屋だと説明受けました。細長い階段には窓がないので日当たりはなく、両隣の家も壁同士が接する建て方で、同様の5階建てです。招じ入れられた1階の居間とキッチンには、天井からテレビが吊り下がっていて、その前に食事するテーブルがあり、すぐ横には、ホンダのオートバイと自転車が置かれています。つまり、1階は車庫も兼ねているのです。
日常の家族生活は、夫婦共稼ぎですので、子供を連れて朝7時半に家を出て、男の子は保育園に預け、夕方5時に迎えにいき、夫も6時には仕事から戻ってくるので、毎日4人揃って夕食し、テレビを見て、家族団欒する生活、日本人は家族揃って食事しないそうですね、と指摘されました。
眼鏡をかけた12歳の女の子に聞きました。「一番行きたい国はどこ」「日本です」「どうして」「ドラエモンのマンガがあるから」。
アジア地区では圧倒的に「ドラエモン」が人気です。また、テレビも日本のアニメーションが圧倒的シェアですので、マンガ・アニメ等のソフトウェアパワーによって、日本のイメージが作られている実態をハノイの家庭で確認できました。

特殊性が普遍性になった

ニューヨークの子供に聞くと、好きな食べ物のベストスリーは「スシ、ピザ、スパゲッティ」と答えます。今や寿司は世界の普遍的な食べ物です。しかし、30年前、始めてヨーロッパに行ったとき「日本人は魚を生で食べるらしいね」と、フランス人から軽蔑的な言い方をされたことが思い出としてあります。
そこから、いつの間にか大変化し、世界の普遍性となりました。日本独自の伝統的であった特殊性が、世界中で受け入れられたのです。これをどのように理解したらよいのか。それは、日本人の生活スタイルが持つ背景のソフトウェアが、今の現代の文化パワーとして世界に受け入れられたのであり、そのソフトウェアの原点は、1240年を超える伊勢神宮の式年遷宮にあることを、寒気厳しい早朝の伊勢神宮で感じました。以上。

投稿者 Master : 2007年02月05日 13:39

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