« ワイポイントレッスン 2006年7月24日 | メイン | 10月例会の予定 »

2006年08月21日

2006年8月20日 基礎前提力

環境×文化×経済 山本紀久雄
2006年8月20日 基礎前提力

最近身近で感じたこと

最近、経験したことがあります。それは「同じチーム内で、同じ情報によって、同じタイミングで、同じ事件に接したのに、結果への見解が全く異なる」という経験です。

緊密なチームワークで、情報の共有化も図っていたのに、結果への判断が全く異なっていたのです。数人のチームですから、日頃から頻繁に接し、コミュニケーションも問題なく行えていたのに、結果への評価が全く異なったということ、これはどういう意味を持っているのだろうか、ということに強い疑問をもちました。

経団連・御手洗会長の日本経済イノベート計画

キャノン会長の御手洗冨士夫氏が経団連の会長に就任しました。その機会に「日本経済イノベート計画」提言を月刊文芸春秋八月号に掲載しました。詳しい内容は文芸春秋を見ていただくとして、その中で強調しているのは「基礎的研究開発の充実」です。
日本は世界でもっとも特許の出願数が多い国であるにもかかわらず、そのほとんどが「応用、派生技術」による特許だと言い、それに対しアメリカは「基本特許」が強く、応用特許では、すでに開発された基本特許をどう使うかという視点で研究されるため、リスクは少ないが、たとえ特許が成立しても、基本特許の使用許可を得て、ライセンス料を支払わなければならない現状になっている。だから「基礎的研究開発の充実」が必要であると強調しているのです。その通りと思います。

基礎前提力

経団連・御手洗会長の提言を、人間に当てはめて考えたらどうなるのでしょうか。
人間にとっての「基礎的研究開発の充実」とは、二つの分野に分かれるのではないかと思っています。「基礎前提力」と「基礎研究力」です。
まず、「基礎前提力」は三つの要素から構成されると思います。
その第一は個人の考え方の問題です。いつも「考え方をフレキシブル」に出来るかということです。誰でもそうですが、ある程度の年齢に至ると「考え方を変える」ことが難しくなります。歳を取れば取るほど難しくなりますので、そのことを理解して自らが「考え方をフレキシブル」にする努力を行っていくという姿勢が大事です。そのことを別の言い方にしますと「戦略・目的」分野と「戦術・対策」展開を、区別し行動できるかということになります。「戦術・対策」にこだわり執着し、「戦略・目的」を軽んじ蔑ろにする思考は「考え方をフレキシブル」に出来ない人物の特徴です。「考え方をフレキシブル」にすることが基礎前提力の第一です。
次はチームワークという問題です。チームワークをどのように組めるのかという視点です。一人の力は限界があります。他の人との組み合わせによって新しいことへの挑戦が可能になっていくのです。ですから、まず大事なのはチームメンバーとの円滑な連携・協力です。いわゆるホウレンソウ(報告・連絡・相談)を通してのコミュニケーションが程よく、適宜、適切に出来るかです。これは古くから言い伝えられていることで、日本人がもっとも大事にすることです。このホウレンソウが基礎前提力の第二です。
三つ目はグローバル化の中での改善項目です。日本人の特徴からの問題です。日本人は世界の人々との比較で、どのようなところに特徴があるのか。逆に言えば弱点を知った上で、それを補う訓練を自らに植え付けるという視点です。日本人の弱点は先般のワールドサッカーで見事に示されました。得点能力が低いのです。シュートがゴールに結びつかないのです。パス回しが多すぎるのです。ゴールを取るタイミング決断力が弱いのです。判断力はあっても、その判断から決断への結びつけが弱いから「判断はできても決断が出来ない」傾向が強い国民性です。それを知った上で自分自身をつくりあげていこうとすることが、世界と仕事するためには必要で、これが基礎前提力の第三です。
この「基礎前提力」が不十分の場合、どのように努力しても、途中か最後あたりで、この三つの不十分さが顕在化することになり、結果的に人間力の弱さとなって物事が達成できないという結果になり易いのです。これは人間としての基本的な部分の鍛えで、その意味で経団連・御手洗会長が提言した「基礎的研究開発の充実」の「基本特許」分野に当たるのではないかと思っています。人間の基礎前提がガッチリと構成できていない人は、結果的に達成度が低いということになりやすいと思います。

基礎研究力

人間にとっての「基礎的研究開発の充実」のもう一つは「未来への基礎研究力」です。
あるテーマ、ある事件、ある問題、それに向かい解決したいときに、その対象に対して行動するための推進する基礎研究力です。
テーマや問題の性格を分析整理し、どの方向に持っていくことが妥当な解決策となるか、つまり、未来に生ずる解決への方向性を定めることと、それを推進する行動力です。
これはテーマと問題によって、それへの対処が常に異なります。ですから、テーマと問題によっての応用、派生技術が問われます。その意味で、これは経団連・御手洗会長の提言で言う「応用、派生技術」に当たると思っています。テーマと問題について妥当なステップを踏んで行動していけるかどうかです。
例えばテーマでしたら「創造と開発」のステップ、問題解決で言えば「異常、不良、損失、困惑、悩みの解決」のステップですが、この推進には昔から常に変わらないセオリーが存在しています。そのステップセオリー通り努力し一生懸命に進めていくと、突発的大事件が発生しない限り、時間の経過とともに良好な状態になっていき、解決に結びついて行くことが多いのです。これは今まで多くの「創造と開発」事例と、「問題解決」事例を経験したことから断言できます。
ですから、この「未来への基礎研究力」としての「応用、派生技術」は「ある条件」さえ整っていれば、成功の道に向います。多くの成功事例はこのステップセオリーを踏んでいるからこそ成功しているのです。

実態を知る

では、成功に向うための「ある条件」とは何か。それは実態を知るということです。
当たり前だと考えられるでしょうが、この実態を知るということが、自分の「実際知識」になっていないと役立たない場合が多いのです。
俳優の児玉清氏が日経新聞のコラム(2006.7.28)で述べています。
「猛暑の中でのオリンピックとなったアテネを実際に訪ねたときに痛感したことであった。テレビ観戦していた人たちに、帰国後、いかにもの凄い炎暑であったか、女子マラソンの日など煮え滾るほどの暑さであっことを僕がいくら訴えてもわかってもらえなかったのだ。テレビの画面だけを見て、恰もすべてがわかったと思ってはならない。実際にそこに行かなければ本当のことはわからない、ということを肝に銘じたのはこのときであった」と。
テレビ画面は奇麗事になるきらいがあり、見てわかったつもりの観光ガイドブック的な知識になりやすいのです。そうではなく実務として役立てようとしたら、体験知識にしておかないと「未来への基礎研究力」としての「応用、派生技術」に発揮できないと思います。多方面の異種・異質の領域について直接体験することがベターで、その積み重ねが「創造と開発」と「問題解決」のステップセオリーに重なって効果を発揮させていくのです。

最近の事例で検証できたこと

最初に申し上げた「同じチーム内で、同じ情報によって、同じタイミングで、同じ事件に接したのに、結果への見解が全く異なる」という経験から、どうしてそうなったのかという疑問。その答えは「基礎前提力」にあったのではないかと思っています。
いくら同じチーム内に所属していても、別人格で、生れも育ちも異なるのですから、同じ考えではありません。その上に「基礎前提力」への理解レベルが異なっているとしたら、いくら「創造と開発」と、「問題解決」へのステップセオリーを踏もうとしても、また、現場の実態把握がお互いに出来ていたとしても、スタートする最初のところで齟齬がありますから、次のステップに入れないということになります。
経団連・御手洗会長提言の「日本経済イノベート計画」で触れている「基礎的研究開発の充実」は、人間行動に関して大変示唆に富んだ指摘であると痛感しています。以上。

投稿者 Master : 2006年08月21日 09:09

コメント