« 12月の例会:文化に挑戦 | メイン | 12月例会〜参加の感想 »

2005年12月23日

クールジャパンの背景

環境×文化×経済 山本紀久雄
2005年12月20日 クールジャパンの背景

NYタイムス記事
NYタイムス一面に掲載(2005年11月21日)された記事をご存知でしょうか。英語のタイトルは、「Ugly Images of Asian Rivals Best Sellers in Japan」ですから「アジア人ライバル達の醜いイメージが、日本でベストセラーに」と訳せます。

最初の書き出しに「若い日本女性が“今の韓国をつくったのは日本だ、と言っても大げさじゃないわよ!”と声高に叫んでいる」とあり、「今の中国を見て御覧なさい。中国の根本的な本質、思想、文学、芸術、科学、制度、どれをみても魅力的なものなど何一つとしてない」と続け「日本人が中国人と韓国人を見下して、対立を扇動する内容のマンガ本二冊が日本でベストセラーになっている」という紹介記事です。
NYの知人がこの記事を翻訳して送ってくれたのですが、日本ではあまり関心高く取り上げていないようです。しかし、先週オーストラリア・シドニーで、日本人向けの週刊情報誌を見ましたら、この記事が紹介されていました。このような記事は、外国人が日本をどう見ているか、という意味で参考になる記事と思います。
ご興味ある方はご連絡いただければ、翻訳記事をご提供いたします。

日本のギャップ
日本人が外国へ行く人数は2004年実績で1683万人。これに対して外国から日本を訪れる人は614万人で、世界32位という低い実績です。
しかしながら、日本の人気は高まるばかりです。車、IT機器、アニメ、寿司、ラーメンなど「クール・ジャパン」と呼ばれる新しい「かっこよさ」で世界に広がっています。
シドニー市内の、最もロケーションのよいビル三階に紀伊国屋書店があり、そのマンガ売り場では少年・少女達が床に座って読みふけっています。紀伊国屋の前はラーメン専門店「一番星」ですが、昼時には入り口予約用紙に名前を書いて待つ人が20人はいます。同じテーブルに相席させ、レジで支払うスタイルですから、食べ方もシステムも日本式です。二階に降りると「日本屋」という看板の陶器とお茶の専門店があり、経営者は香港の若いカップルですと、日本人女性店員が教えてくれます。地下の回転寿司もシドニーっ子でいっぱいです。
これはシドニーだけでなく、NYでもパリでも同じでした。現地・現場・現認した事実です。ですから、他の都市でも同じ実態と思います。
しかしながら、このような人気が高い日本ですが、実際に日本を訪れる人は少ないのです。このギャップをどのように考えたらよいのでしょうか。

日本経済のギャップ
日本経済に対する考え方にも内外差が大きく発生しています。2005年9月14日に内閣府主催の日米経済学者会議があり、そこでの米コロンビア大のデビッド・ワインシュタイン教授発言にはビックリしました。「日本の財政赤字はそれほど深刻でなく、すでに危機は去った」と語り、日経新聞・経済教室欄(2005年11月29日)で「日本国民は竹中平蔵という経済改革のよき指導者を持てたことを幸運だと考えるべきだろう」と主張しました。
これに対し、内閣府の林伴子参事官は、出生率の低下、財政赤字の実態、介護医療費の増加要因をあげて、日本の財政は安心できないと、内閣府主催の同会議で反論しました。
2002年に米格付け会社が、日本国債を格下げし、アフリカのボツアナより下にランクしたときは、日本政府は外貨準備高や個人貯蓄高などをあげて、日本は危機に瀕していないと反論しました。ところが今は、海外の方が日本経済について楽観視しています。外国人の日本株買い越しは過去最高であり、ドイツは総選挙の結果がしめすように、国民が改革を支持しなかったのに、日本国民は小泉政権の改革を支持したと高く評価し、フランスからは日本の租税負担率が低いので、まだ上げる余地があるのだから心配ない、というように数年前とは全く攻守ところをかえた、日本経済議論が展開されている実態です。
しかしながら、日本国民の多くはまだ経済について心配しているのも事実です。

稲盛経営哲学
京セラ名誉会長の稲盛和夫氏は、次の方程式で「考え方」の大事さを強調しています。
仕事の結果=考え方×熱意×能力 
この単純方程式の中に稲盛哲学が入っています。熱意と能力の前段階に「考え方」が位置づけされているのです。ですから、最初の考え方に間違いがあれば、いくら熱意と能力があっても、仕事の結果は全然ダメになるというのです。最終結果として、経営数字やお金を求めたかったら、その経営者の心理や人生観が決めるといっているのです。
この稲盛哲学方程式は何でも適用できると思います。例えば、オーストラリアでは20年前まで大腸ガンが多く、その当時、世界を見渡したところ日本は少なかったので、日本を研究したら、日本人は魚を多く食べるということが分かって、それから魚を食べることを広めだしました。結果は、今のシドニー・フイッシュマーケットが示しています。
今やシドニー・フイッシュマーケットは、日本の築地に次ぐ多種類の魚介類を扱い、近代的なIT機器による活発な競りが行われており、それらを見ると、オーストラリア人が魚を食べていると分かります。ガン予防を起点に「魚を食べるという考え方」に変わったのです。
稲盛哲学は日本車にも適用できます。米ゼネラル・モーターズ(GM)の経営危機が伝えられていますが、一方、日本車は快調で、オーストラリアでもトヨタがシェアトップです。
アメリカは車の母国なのに、どうして弱体化したかについて、ホンダのトップだった雨宮高一氏が次のように語りました。答えは単純シンプルです。「まじめさが足りなかった」の一言です。この「まじめさ」とは「継続性」と読み替えてもよいと思います。
製造業研究の第一人者である藤本隆弘東大教授は、宮本武蔵の「千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を練とせよ」を引用して、日本の製造業の本質を語っています。地道にひたすら改善を積み重ね、自社の能力を高めること。これが大型買収や華麗なブランド戦略を上回る威力を発揮させて、結果としてジワジワとシェアをとっていく。今やトヨタ式改善活動は、オーストラリアの田舎町企業の壁に「KAIZEN」と書かせるまでの、世界標準になっているのです。「改善活動という考え方」が世界を制したのです。

クールジャパン
今、世界は日本のことを「流行を次々と生み出すかっこいい国」だと思っている。これが世界の日本を見る常識になっているといえます。確かにNYでも、パリでも、シドニーでも、日本のアニメとマンガと日本食は憧れの的です。最初にNYで、ラーメン店にアメリカ人が並んでいるのを見たときは驚きました。次にパリで同じ状況を見たときも驚きました。しかし、シドニーでラーメン店に入って、食べながら入り口に20人以上並んでいる情景を見ても、もう驚きませんでした。それは眼が慣れたのではなく、日本が持っている魅力内容を理解でき、その視点でラーメン店に集まる外国人を、見つめることができたからです。
外国人は日本商品のすばらしさを、正しく妥当に認識しているのです。日本車が何故人気あるのか、それを現地で聞いてみれば分かります。ガソリン価格が急騰して、燃費のよい、修理の少ない車を求めるのが常識となっているのです。デザインや華やかさよりも、商品の目的に合致した実質価値を選択基準とすれば、当然に日本車が評価されていき、その背景には、それらを創りあげてきた日本人を評価することにつながっていくのです。
日本人に対する考え方を変えたのです。考え方を変えたポイントは「まじめさと緻密さ」への評価であり、継続的努力を続けることのできる国民性への理解です。
だが、しかし、社会経済性本部が発表した「国民の豊かさの国際比較」2005年版を見ますと、国民一人当たりの国際観光収入は、比較対照のOECD加盟30カ国の中で最下位です。一位のルクセンブルグは約97万円、それに対し日本は1.4万円。全く話になりません。かっこいいと思われているのも事実なら、外国人が訪れてこないのも事実です。
外国人が来ない理由はいろいろ挙げられますが、その大きな一つとして「住んでいる外国人が少ない」ことを指摘できます。自宅の周りを見てください。外国人は殆どいないでしょう。先進国では珍しい実態です。何故住んでいないか。それは住めないように規制があるからです。親戚が多い国には観光に気楽に行きやすいのですが、その反対は訪問し難い国です。
日本のクールジャパンの背景は、緻密な国民性と、その緻密であるが故に排他的な国民性、その両者が存在しているのではないか。その指摘がNYタイムスの記事ではないか。このようにシドニーの街中を歩きながら考えた、今年最後のYAMAMOTOレターです。以上。

投稿者 Master : 2005年12月23日 15:16

コメント