« 渋谷「山本時流塾」のご案内 | メイン | 情報の区分けが必要 »

2011年02月07日

YAMAMOTO・レター

環境×文化×経済 山本紀久雄
2011年2月5日 三国一の花嫁

三国一の花嫁とは

広辞苑を引きますと、三国一とは室町時代の流行語で、日本、唐土(中国)、天竺(インド)にわたって第一であることとあり、多くは嫁入りや婿取りの場合に祝辞として用いたとあります。つまり、三国一の花嫁とは「世界一の花嫁」という意味になり、これを先日のアメリカ・シアトルで体験し、日本について考えさせられました。

シアトルの山下英一さん
昨年9月に出版した「世界の牡蠣事情」のシアトル編で、訪問したオイスターバーのシェフから「日本の牡蠣を最初に持ってきたヤマシロさんを知っているか」と聞かれ「知らない」と答えたヤマシロさんが、その後、ひょんなきっかけでシアトル在住の「山下英一さん」と判明しましたので、先月にお詫びかたがたご自宅を訪問いたしました。
シアトル市内の静かな住宅地の角のお宅、ドアをノックすると笑顔の山下英一さんが現れました。1923年生まれですから現在88歳。驚くほどに明瞭な発音で日本語を話します。奥様も小学校でピアノを弾くボランティアをしていて、同様に明確な日本語です。
シアトルに日本の牡蠣を持ってきた最初の人物は「世界の牡蠣王」と呼ばれた宮城新昌氏(1884-1967)で、山下さんの父上が宮城新昌氏から学び養殖業を始め、英一さんが後を継いでいたのですが、第二次世界大戦で日本人は強制収容所に入れられ、養殖業は中断するなどのご苦労話をお伺いしました。

オイスターバー
山下家でいろいろお話をお伺いした後、山下ご夫妻とオイスターバーに出かけました。82歳の奥様が運転されるのには驚きましたが、英一さんも毎日牡蠣養殖場に車で行くという現役にもまたビックリです。
オイスターバーに入りますと、シェフが飛んできます。山下夫妻はシアトルでは有名人なのです。勿論、牡蠣一筋の業界人として知られているのですが、それよりもご夫妻の人間性です。人柄が慕われていることが分かり、日本人として山下ご夫妻を誇らしく感じました。このオイスターバーで食べた牡蠣は、勿論、山下さんの牡蠣で、地元のワシントン州のドライな白ワインとのミックスに満足いたしました。

クマモトオイスターが一番人気
ところでオイスターバーでも、シアトル市民や観光客が訪ねるパイク・プレイス・マーケットでも多くの新鮮な牡蠣が並んでいます。
牡蠣は日本のマガキが主流で、アメリカではマガキをパシフイックオイスターと呼称し、養殖している海域ごとにブランド名をつけて販売しています。しかし、もう一つ「クマモトオイスター」という小ぶりの牡蠣があり、これは勿論、日本の熊本生まれ牡蠣で、この方がパシフイックより二倍近い価格で売られているように、アメリカでは一番人気です。
写真はパイク・プレイス・マーケットのクマモトオイスターです。
市場の写真.jpg


地元の新聞が報じたクマモトオイスターのすごい人気
クマモトオイスターの人気が素晴らしい事を、サンフランシスコの新聞クロニクル紙が報じました。(2002.4.28)
「サンフランシスコにおける生牡蠣は、どこでもクマモトはトップセラーである。このクモ(クマモトの愛称)現象はベイエリアだけに限られない。ロサンゼルスからシアトルにわたる全西海岸のオイスターバーでクモの人気は沸騰している。カリフォルニア、オレゴン、ワシントンの養殖場から仕入れられたクマモトは、シカゴのショウズ・クラブハウスでは週に800個、マンハッタンのグランドセントラルにあるオイスターバーでは日毎に数百個も売れている。更に、アジアやヨーロッパまで輸出されている」
 この実態は年々高まっていまして、クモは今や人気トップの牡蠣ブランドになりました。

クマモトオイスターの養殖場
クマモトオイスターの養殖場現場に行くため、アメリカで牡蠣販売最大手のテイラー社に向かいました。ここで社長からクマモトオイスターと合うワインのコンテストを毎年開き、今年も開催する、というようにクマモト人気ぶりを確認し、いよいよクマモトオイスターの養殖場に向かいました。養殖方法は日本と違い、海底に地撒きするスタイルですので、海の干潮時でないと実態が分からないので、潮の引く夕方、もう少し暗くなりかけたタイミングに海に行ったのですが、案内役はワシントン大学のジョス・デービス準教授で、テイラー社の指導も行っている、熊本県の海まで調査に行った人物です。
クマモトオイスターの養殖場は素晴らしい景観でした。正に牡蠣養殖場として絶好の自然条件です。湾奥深く位置し、三方を森に囲まれ、一方から外海につながり、かつてはインデイアンの漁獲場だったところで、熊本から嫁入りする場所としては最高のロケーションであり、とても大事に扱われている実態に感激しました。その夕陽の情景写真です。台湾・シアトル・SF2011.1 038.jpg

ところで日本の熊本ではどういう状況か
このようにアメリカ中で人気沸騰のクマモトオイスター、実際の生まれ故郷である熊本ではどういう状況なのでしょうか。前述のワシントン大学のジョス・デービス準教授が
1997年に熊本の海を訪ねていまして、彼の感想は「熊本の現実はとても悲しい」と歎きの一言で、熊本の海で撮影した写真をこちらに渡してくれました。
左が岸壁に蔓延っているクマモト牡蠣で、右は彼が岸壁から採取しているところです。


kummoto oysters on wall.jpg
pure Kumamoto oyster.jpg

アメリカでは三国一、日本では無視
日本は観光大国を目指し、2008年10月に観光庁が発足、2010年6月経済産業省に「クール・ジャパン室」を設置、日本の戦略産業分野である文化産業の海外進出促進、国内外への発信や人材育成等に強化をしています。その成果か、昨年の訪日外国人数は過去最高の861万人となりましたが、日本の多様な魅力を考えると、もっと多くの外国人が訪れる国にすべきでしょう。それへの対策として温泉ガイドブックの世界50カ国書店への配架プランを、既に観光庁に提出しています。
しかし、今回、アメリカで熊本生まれの牡蠣が「三国一の花嫁」として、大事に受け入れられ、アメリカ一の人気ブランドになっている実態を再確認した反面、生まれ故郷の熊本では誰も見向きせず、養殖する人もいなく、市場に出回らず、日本人は一切食べないという無視された姿、この日米格差をどうのように理解したらよいのか。理由はいろいろありますが、日本人は自国の財産を知ろうとしていないのではと思わざるを得ません。以上。

投稿者 Master : 2011年02月07日 08:27

コメント