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2007年03月21日

2007年3月20日 「ジャパン・クール」の位置づけ

環境×文化×経済 山本紀久雄
2007年3月20日 「ジャパン・クール」の位置づけ

昭和16年夏の敗戦
 2月9日(金)の衆議院予算委員会で、前防衛庁長官の石破茂さんが猪瀬直樹著『日本人はなぜ戦争をしたか――昭和16年夏の敗戦』という本を取り上げ、以下のように発言したと、猪瀬さんから連絡受けましたのでご紹介します。

 「なぜ『昭和20年夏の敗戦』ではなくて『昭和16年夏の敗戦』なのか、ということであります。昭和16年4月1日に、いまのキャピトル東急ホテルのあたり、首相官邸の近くですね、当時の近衛内閣でありますが、総力戦研究所という研究所をつくりました。そこにはありとあらゆる官庁の30代の秀才、あるいは軍人、あるいはマスコミ、学者、36名が集められて、どのようなテーマが与えられたか。『もし日米戦わばどのような結果になるか、自由に研究せよ』というテーマが与えられた。
 8月に結論が出た。緒戦、最初の戦いですね、これは勝つであろう。しかしながら、やがて国力、物量の差、それが明らかになって、最終的にはソビエトの参戦、こういうかたちでこの戦争は必ず負ける。よって日米は決して戦ってはならない。という結論が出て、8月27日に当時の近衛内閣、閣僚の前でその結果が発表されるのであります。それを聞いた東条陸軍大臣はなんと言ったか。
 『まさしく机上の空論である。日露戦争も最初から勝てると思ってやったわけではない。三国同盟、三国干渉があってやむを得ず立ち上がったのである。戦というのは意外なことが起こってそれで勝敗が決するのであって、諸君はそのようなことを考慮していない。この研究の成果は決して口外しないように』と言って終わるわけです」
この人物が戦争時に総理大臣となったわけですから、開戦前から敗戦は必至でした。

大英博物館
 3月の出張はロンドン・パリで、ロンドンでは仕事の合間に大英博物館へ参りました。
 大英博物館に行った目的は、元治元年(1864)に英米仏和の四国連合艦隊が下関を攻撃し、長州藩の砲台が戦利品としてイギリスに獲られ、大英博物館に所蔵されていると聞いたからです。砲台が獲られた要因は、前年の文久三年(1863)長州藩が攘夷実行だと、下関海峡を通る外国の軍艦や商船を砲撃し、その仕返しが四国艦隊攻撃となり、上陸され、砲台を戦利品として持ち去られたのです。
 獲られた砲台は、日本コーナーにも、膨大な展示品リストブックを調べてもなく、現在、問い合わせをしているところですが、調べるため日本コーナーに一時間半いますと、外国人が日本に持つ関心の内容が分かってきます。
 日本コーナーは5階で、縄文時代から現代まで展示してある中、サムライと説明している鎧兜と刀が展示してあるところ、ここで写真を撮る人が一番多いのです。サムライが世界の人々に知られていることが分かり、また、結構多くの人たちが日本コーナーに入ってきます。日本に関心が高いのかと思いました。
 しかし、1階のエジプトコーナーに行ってみますと、黒山のような人の多さです。日本とは比較できない人の群がりで、その差は同じ時間帯での比較ですから鮮明に分かります。
 一番人気はミイラ、次にロゼッタストーンの象形文字・ヒエログリフです。1799年ナポレオンのエジプト遠征時に、ナイル川の西支流の河口、ロゼッタ近くで発見された石碑で高さ114m。内容は紀元前196年、メンフィスの神官会議がプトレマイオス五世の善行をたたえ、王に特別な神官の称号を与えることを決議した布告文で、これもナポレオンの戦利品です。
 大英博物館は世界中から略奪した物品の一大展示場ですが、展示物を見ようと集まってくる人数、その集客数は国別の魅力度、それは今のものだけでなく過去の歴史という財産への評価を正直に示しています。
 日本が問題にならないエジプトの集客数、考えてみれば当たり前で、エジプトは世界四大文明の発祥地であり、その後の世界の発展に大きく貢献した基盤文明の地で、紀元前3200年という想像を超えた大昔に文明が誕生し、その当時の日本は闇の中だったのですから、比較にならない文明格差があるのです。つまり、世界のエジプトは基盤で、日本は基盤文明を受けて派生した表層文化であるという関係になると思います。

日本のソフトパワー
 世界中の国々はいずれも四大基盤文明の影響を受け、その後に自国の文化を育てて来ました。日本も中国黄河文明から始まった中国文化の影響を最も多く受けつつ、長い歴史の中で磨き、独自の日本文化を創りあげ、世界から評価されています。以前は古典芸能としての歌舞伎や能楽などでしたが、これに加え、最近は「ジャパン・クール」(かっこいい)という評価を得だしているのが、サブカルチャーの分野です。
 かつてサブカルチャーは正当な文化ではない、B級文化だ。とそこに所属する人たちが自虐的に語っていたのですが、今では日本食にはじまり、すし、マンガ、アニメなど、その中に「ぬりえ」も入るだろうと、現在いろいろ研究しているのですが、世界の人々が日本発のソフト文化を取り入れ始め、世界の普遍性に広がりつつあります。
 その実態を確認しようと、パリの高級住宅街16区パッシー通りの回転すしに入ってみました。12時ちょうどに入りますと、まだ店内には数組しかおりませんでしたが、すぐにいっぱいとなり、後ろに席待ちの人たちが並びだしました。見渡したところ日本人は他にいません。前も両隣も欧米人です。フランス人とは限りません。パリには年間2600万人が訪れるという観光都市ですから、街の中にいるのはフランス人と思うのは誤りです。
すしの皿は、日本と同じように色を違えた価格とし、その皿を数えて勘定書きをウェイトレスがつくり、レジで支払うシステムです。欧米ではレストランの支払いは食事したテーブルで行うのですが、回転すしでは客がレジに行く日本式で、これが普遍性となっています。ただし、すし皿の種類は日本より魚のネタが少なく、それに代わってヤキトリや甘いものが多くなっているところが違いますが、客全員が箸を上手に使い食べています。いずれにしても回転すしが繁盛していることが分かり、確かに日本のソフト文化が「ジャパン・クール」として、世界中の人々に受け入れられていることを確認いたしました。

「ジャパン・クール」の位置づけ
 「ジャパン・クール」として世界から認識されだした日本のソフト文化、20年前は刺身を食べる人は僅かでした。しかし、今では「サシミ」を当たり前に食べ、すしのネタを特定するのが普通になっているのです。急速な日本のソフト文化の採り入れ方です。これをどのように位置づけて考えたらよいのでしょうか。日本文化だけの特徴でしょうか。
 実は、このような現象は日本だけの特殊現象ではありません。かつての事例としてジーンズがあります。ジーンズは今やどこの国に行っても溢れ、世界中で愛用されている普遍性です。アメリカから発したジーンズ、第二次世界大戦後の衣服簡略化の傾向を受け、各国の若者の間で流行しました。つまり、若者達に「かっこいい」と受け入れられ、その後に年齢・性別を超えて普及してきたのです。イタリアのスパゲティも同じことです。イタリアの押出し麺であったものが、今や世界の普遍的人気の食べ物です。
 このように各国のソフト文化の中から、世界の人々が魅力として感じたものを、世界の普遍性として受け入れていく、という文化受容セオリーがあって、そのセオリーに則って最近の「ジャパン・クール」もあると思います。

基盤文明と普遍性文化
 ここで東条陸軍大臣の「戦というのは意外なことが起こってそれで勝敗が決する」という日露戦争を事例に述べた発言、これを検討してみたいと思います。
 これは戦争に勝利するための思考力でしょうか。戦争ですから「意外なこと」現象も多々発生するでしょうが、戦争は国家の総力を挙げ、国の基盤同士の戦いですから、時間の経過とともに基盤力が表出し、「意外なこと」ではなく「力どおり」の結果になっていきます。現象として現れる「意外なこと」を正しく理解するには、その背景に存在する基本的・基盤的なことから思考しないといけないと思います。東条陸軍大臣の思考にはこの部分が欠けていると思います。現象と本質という視点です。
 人気が出ている「ジャパン・クール」という日本文化の「意外な人気」現象も、その基盤には世界四大文明があり、その影響を受け長い時間をかけて創り出してきたものです。
 大英博物館に訪れた世界中の人々は自然に興味と関心のあるコーナーに向います。エジプトと日本の大きな集客数格差は世界文化の本質と今の現象を表出しているのです。以上。

投稿者 Master : 2007年03月21日 12:44

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