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2005年11月04日

時代を読み、時代と闘う

    YAMAMOTO・レター 環境×文化×経済 山本紀久雄
       2005年11月5日 時代を読み、時代と闘う

衆議員選挙結果の論評

小泉第三次内閣がスタートしました。先の衆議員選挙結果を受けての改造ですが、その選挙について、前々回のレターでご紹介した藤原直哉氏の見解、それは大手新聞社が選挙前に「与党有利」と報じたのは、「大新聞はアメリカにいわれ情報操作している」であると言い切ったのですが、結果は大外れでした。事前の新聞予測報道が正しく、藤原直哉氏見解は全く誤りました。この件に関して「藤原氏は結果をどう釈明しているのか」という問い合わせが多くの方からありましたので、その後の藤原氏の見解をご紹介いたします。

藤原氏が述べる選挙結果は「小選挙区立候補者1131人を、民営化賛成と、反対に色分けして、その小選挙区での票数を集計した結果、民営化賛成3389万票、反対3419万票」(日刊ゲンダイ9月28日)で、30万票反対のほうが多い。だから民意は反対だったという見解です。ですから、選挙結果を見誤ったわけでなく、小選挙区という選挙のあり方・システムの結果で自民党大勝利となった、という主張です。
このように場合には、まず、藤原直哉氏の立場を検証しないと発言趣旨が分かりません。藤原氏の立場は、明らかに小泉政治に対して反対なのです。その立場から分析し、解説しますので最初から判断結果は決まっているのです。小泉政治に対する問題点、疑問点を探す作業をしてから、判断するということになります。良い悪いということではなく、自らの立場から見解を構成しているのです。
ある一つの事実を判断するのは、その人の立場です。ですから、当選者数で圧倒的多数という事実から判断すれば自民党勝利、そうではなく合計投票数でみれば反対という主張になります。人は立場から物事を判断する好事例であり、人の発言は立場からなされる、ということを改めて確認したいと思います。

景気に対する立場の転換

郵政民営化法案成立後の構造改革は、次の四つ、それは●国と地方の「税配分」を見直す三位一体改革、●「総人件費の削減・定員の純減」を目指す公務員制度改革、●政府系金融機関の「統廃合」等の政策金融改革、●「診療報酬」の見直し等の医療制度改革であり、これらの改革を進めていくに当たっては、日本経済の状況が大きな背景要因となっていきます。つまり、景気の動向如何が重要な影響力を持ちます。
その景気については、10月20日の日銀支店長会議で福井総裁が「景気は踊り場から脱却し、回復を続けている」「緩やかながらも息の長い回復を続けていく」との発言をしました。また、経営の現場からの発言として、大丸デパートの奥田会長が「百貨店の売り上げはここ数年、全国平均で年間3%前後、落ちていたが、今年は下げ止っている」(日経新聞
10月31日)と、景気の底割れの不安は遠のいた、という実感を述べています。
これらが景気の全体感を示す発言ですが、一方、地方の商店街に見られるシャッター通りの現実を見ると、景気は回復していないという指摘もなされています。確かにシャッター通りの現実から検討すると問題が多々あるのですが、この見解についても「立場の転換」をしていかないと、景気判断を見誤ることになると思います。

日本の実態感

日本の実態を把握する方法はいろいろあると思いますが、最も妥当で適切な方法は、ある期間、集中的に日本全国を自分の足で観察を続け、自らの肌体験を通じて感じた結果で判断することではないかと思います。あるテーマを持って、そのことに集中し各地を行動する。それを続けていると、次第に自らの感覚、それは意識しているテーマに対する感度ですが、それが鋭角になっていき、その結果として実態を妥当に把握できる。
これは、過去何回も、多くのテーマで調査・研究してきた経験則からいえる事実です。その好適例として『「奥の細道」を歩く』(総集編 日経10月21日)が眼に留まりました。
日経新聞・土田記者が5ヶ月間、142連泊、芭蕉が歩いた道筋を旅した結果の感想を述べた記事です。その中で地方のシャッター通りとして目立ったところとして、矢板(栃木)、白河(福島)、石巻(宮城)、尾花沢(山形)、柏崎(新潟)を上げています。
これは、土田記者が毎日歩いて感じた実感比較、そこから取り上げたのですから事実実態ですので、この目立ったシャッター通りを基準にして判断すると「景気の底割れの不安は遠のいた」(大丸デパート・奥田会長)という発言は妥当でないということになり、この視点から日本経済を問題視する識者も多くいます。
しかし、土田記者は142連泊のまとめとして、次のように述べているのです。
「山村漁村の高齢化も行く着くところまで行った感じだが、●日本は狭くない、●国土は緑一色、●地方は貧しくない――で、いずれも日本の「常識」に反している」と。
これが実際に5ヶ月歩いた現代の日本の実態感覚なのです。更に、その実感感覚から「旅で接した人の多くが、その土地で暮らしていることに強烈な自信と誇りを持っていて、その高い精神性がゆとりを生み、表情を豊かにしている」と断定しています。この土田記者の事実実感をどのように理解したらよいでしょうか。

背景条件が変わった

ついこの間のバブル崩壊前までの日本、その政治の基本は●国土の均衡ある発展、●行政が地域間格差を支える、という方針でした。しかし、これは時代の変化で出来ない相談、ということになっているのが日本の現実です。
時代変化の背景、それは●人口減、●高齢化のスピード、●国家財政超赤字であり、これらが全国一律均衡発展と、地域間格差を支える行政サービスの継続を難しくさせているのです。つまり、日本は時代変化を取り入れた「再編成」が必要不可欠で、その方向性は「選択と集中」となりますが、この時代背景を本当に理解しないと、今の時代を生きていくことは難しいと思います。
大丸デパート・奥田会長は「公共事業に依存する産業構造から抜けきれず、雇用や所得の改善が進まない地区は厳しい」とも発言していますが、この意味は「従来型政治は終わった」という事実を指摘しているのです。ですから、行政には頼らず、自らが所属する地域・地区が、自ら特長を創造・工夫して、解決策を講じていくしかないのです。
しかしながら、時代変化を取り入れないところは、従来型のままですから、当然問題点が浮き彫りになり、それが実態として各地に現出していき、その問題実態に視点を当てる「立場」からみれば「日本経済は回復途上ではない」という判断になると思います。

時代を読み、時代と闘う事例

(智頭町)
8月5日のレターでご紹介いたしましたが、鳥取県に智頭町という人口九千人の町があります。何もないと思われていたこの智頭町に、今は観光客が訪れることで知られ、マスコミにも取り上げられるようになってきました。
ここは前町長の寺谷誠一郎氏が「何もないが、空気と水は綺麗だし、昔の面影が残っている」という素直な街づくりコンセプトからスタートしました。その代表が「石谷家住宅」であり「板井原集落」です。「石谷家住宅」は8月5日のレターでご紹介しましたので、今回は「板井原集落」をご紹介します。智頭駅から4キロ、車で10分、バスはありません。不便です。しかし、ここに行くと「日本の山村集落の原風景を残し、昭和初期から三十年代のたたずまいが色濃く」、スローライフを求める都会の中高年層が「故郷に帰ってきたような安らぎを覚える」と足しげく訪れるようになりました。こうなると、この土地で暮らしていることに強烈な自信と誇りを持ち、訪れる人をゆとりある表情で迎えるようになりました。自らの地域を価値再編成し、時代を読み、時代と闘って成功した好事例が智頭町です。

(ぬりえ美術館)
都営地下鉄三田線に乗って、頭の向こうに目線をおくと、見慣れた画面が入ってきました。
ぬりえ美術館の車内吊り広告です。それも東京国立博物館、東京国立近代美術館等が展開する「今日は、アートでゆっくり」というキャンペーン交通広告です。ビックリしました。小さなプライベート美術館が、天下の国立博物館・美術館と同一に扱われているのです。勿論、東京都交通局の展開ですから、広告費は無料です。10月までの累計に入館者数は前年比177%、この実績は「ぬりえ文化」出版も影響していると思いますが、ぬりえが確実に時代の感覚をとらえ始め、それを外部機関が認識し始めたと理解しています。

 時代の変化によって、自らを変えなければならない。これが時代のセオリーです。以上。

投稿者 Master : 2005年11月04日 15:42

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