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2011年10月20日

2011年10月20日 世界には日本人がのぞき込めない世界がある・・・その二

YAMAMOTO・レター
環境×文化×経済 山本紀久雄
2011年10月20日 世界には日本人がのぞき込めない世界がある・・・その二

ボトルショック

前号に続くワインの闇の話。外国に行く楽しみの一つはワインである。日本では殆ど飲まないが、欧米に行ったときは、その地のワインを楽しむことにしている。それほど味に詳しくなく、ワインの知識もあまり持ち合わせていないが、その地で飲むワインは、その地の匂いと味わいがすると、いつも感じる。

世界のワイン市場は激烈な競争下にある。ワイン市場で新世界と称されるカリフォルニア、チリ、オーストラリアはじめ南アフリカワインや、最近では日本の甲府ワインまでが欧米に輸出されるようになってきて、ワインの旧世界・ヨーロッパはたじたじである。

特に旧世界の盟主であるフランスは、ボトルショック(Bottle Shock)で打撃を受けた。

ボトルショックとは、1976年にアカデミー・デュ・ヴァンの創始者スティーヴン・スパリュアが、パリで開催したブラインド・テイスティングにおいて、当時全く無名であったカリフォルニアワインが、バタール・モンラッシェ、ムートン、オー・ブリオンといった最高のフランスワインを打ち破った事件を映画化したものである。
この事件が引き金となり、その後世界中のワイン業界は激動の時代に突入したのである。

ボルドーの「ぶどう栽培、ワイン科学研究所 Institut des Sciences de la Vigne de du Vin」

パリの全国農業コンクールに毎年参加している。昨年二月開催時にボルドー地区の一つのワインコーナーで試飲した女性経営者と親しくなり、ボルドーに行くと彼女のワイナリーに立ち寄り、食事をご馳走になりながら、いろいろワイン造りを教えてもらっている。

というのも彼女のワインに関する蘊蓄がなかなかのもので、参考になるので「それはどこから仕入れたのか」と尋ねると「兄がボルドーの『ぶどう栽培、ワイン科学研究所 Institut des Sciences de la Vigne de du Vin』の教授なので教えてもらっている」との発言である。名前を聞くとボルドー大学教授でもあり、醸造学では世界的権威の人物である。

そこで、彼女の紹介を受け、長らく疑問に思っていた「良いワイン造りの条件」についてレクチャーしてもらおうと、今年の7月の暑い一日、研究所に訪問した。

さすがに研究所は立派である。世界各国から研究者が集まっている先端センターであり、サントリーとも提携していて、日本人研究者も多く訪れるところである。

ここでボルドー大学の醸造学教授からレクチャーを受けたが、良いワイン造りの結論は「葡萄苗から吸収する水の管理が第一重要条件で、次に葉と実のコントロール、これは葉に水が行きすぎると実によくない影響を与えるという二つが条件だ」とのこと。

とにかく明快スッキリ結論で、素人にもよく分かるが、何か欠けていると感じる。

それは、地質との関係が抜けていることで、教授の見解は地面の質が関係しないという見解になる。そこで、そのことを質問すると、勿論、地質が関係するが、それは土地の粗さと細かさで水の保湿力が変わるので、ぶどうの実への水吸収度合に影響するから、該当地質に合う苗木の種類選定に関係する程度だという回答である。

つまり、良いワインと地質との直接因果関係はないという事になる。これは素人考えだが、大いに疑問を感じるが、ボルドー大学教授があまりにもきっぱり断定するので、専門知識のない当方としては追及できなかったが、どうも釈然としない。というのも、世界各地のワインの宣伝には、必ずその地の自然条件、中でも土地環境が写真と共に語られているからである。

そこで、ここの研究所と関係が深いというサントリーに聞いてみようと、広報部に問い合わせしたところ、山梨県の登美の丘ワイナリーで説明してくれることになった。

テロワール(terroir)

山梨県甲斐市大垈の「サントリー登美の丘ワイナリー」では、責任者が親切に説明対応してくれたが、同氏はボルドー大学教授と若い時代にボルドーで一緒に学んだ仲であり、従って、結論は同じであった。

では、ぶどうの栽培地の環境条件、気候、土壌、水などは全く関係ないのか、という疑問に対して、次の説明が展開された。

まず、テロワール(terroir)という概念が大事だと強調した。 この言葉はフランス語特有で、英語にもこの意味をそのまま表わす単語はなく、日本語にも見当たらない。

その「テロワール」だが、フランス人のように体感的・感覚的な意味で理解出来ないが、しばしば登場するので、この概念や意味を把理解しようとすることは必要だ。

極めて大雑把な説明は、テロワールとはぶどう(ひいてはワイン)が生まれてくる環境全体を指すのだ、というもの。つまり、ぶどうが生育する環境が違えば、たとえ同じ種類のぶどうを植えたとしても、出来上がるぶどう(したがってワイン)も異なるという考え。

では、環境といっても具体的にはどんなことを言っているのか、つまり、何が収穫されるぶどう(出来上がるワイン)に違いを与えるのか、というその要素の説明が必要となる。  おそらくフランスのぶどう生産者(ワイン生産者)にとって、この手の質問は彼らを苛立たせるものだろう。

というのは、そんなことは彼らの長い長いワイン造りのなかではなんら説明を必要としない自明の概念なのであって、それをいちいちどの要素がどうで、それがどのようにぶどうやワインに影響するかなどということを、分析的に説明を加えるなどということはナンセンス極まりないということになる。

事実、ブルゴーニュのある高名なメゾンのオーナーがこの質問を受けたときに『テロワールはテロワールだ。』と憮然と答えたという。

 彼らは、ぶどうができる場所によって出来上がるワインの個性が変わる原因を、経験的・体感的に認知し、それらの違いを『土地』『大地』『土壌』という意味を中核に持った『テロワール』という言葉で概念的に使っているのだ。日本語で敢えて考えると日本語の『風土』という言葉はフランス人の言う『テロワール』の感覚に近いかもしれない。

この説明を受けてようやく分かったことは、ボルドー大学教授は何故にテロワールに触れなかったということである。彼にとってテロワールなぞは説明するにあたらない概念なのだ。

一方、サントリーの責任者はワイン後発国の日本人であるので、日本人に対しては、テロワール概念を調べ研究し説明しないと分からないだろう、だからワインの説明にはテロワール概念をまず話すことが不可欠な要素概念と思っているので、当方にも時間をかけてレクチャーしてくれたのだ。

分かったが体では理解できないものだ

ここで冒頭のボトルショックに戻るが、ボルドー大学教授の「水の管理に尽きる」というレクチャー、これがテロワール概念から発したものだと今は理解し、ボルドーでは水のコントロールをしてはいけなく、すべては天然の雨ののみが水としてぶどうに与える水分となっている。つまり、コントロールしないで水の管理をする事になり、水分補給は天候次第というのが旧世界のヨーロッパのワイン造りなりである。

一方、新世界のワイン造りは乾燥地で展開されることが多い。ということは水を適度に与えるという事を行っているのである。水のコントロールを人工的に行うワイン造りとなっている。

これは雨量の多い日本でも同様で、多すぎるための対策は当然にとられている。土中の雨水を流す土管つくりなどであるが、このような水対応策を各自然条件下で展開している。

したがって、ワインのブラインド・テイスティングコンテストを行ったとしても、そのワイン造りの最も重要な条件である、水のコントロールが異なる方法であるから、妥当で的確なコンテストとはいえないかもしれないと今は思っている。

日本人がのぞきこめない世界があるのだ

良いワインをつくるためにはフランスではテロワール概念があるが、それをフランス人からは教えてもらえず、日本人から教えてもらって、ようやく何となく分かったような感じとなった事に複雑な思いをしている。
つまり、日本人には分からない世界、日本人がのぞき込めない世界があるのだということであって、その一つが「テロワールTerroir」なのである。その地に生まれ、その地で育たないと絶対に分からないというものがあるのだという事を、理解しないといけないと思っている。

ギリシャ化問題にある深い闇、草津温泉の欧米人との闇も同様に難しい課題だ。以上。

投稿者 Master : 2011年10月20日 08:12

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